― 二重橋法律事務所では、リーガル・サービスの提供にあたって「4つの柱」があると伺いました。その内容を教えていただけますか。
水川 私たちは企業法務の中でも特にコーポレートガバナンス・M&A、不動産、ファイナンスの4分野について専門性を高め、柱としています。また、当事務所では、大手の法律事務所で行っているような縦割りの部門制を敷いておらず、弁護士が軸足となる得意分野をもちつつ、クライアントのニーズに合わせて他の分野を得意とする弁護士と連携を円滑にとれる体制を整えています。とりわけ、ファイナンスとガバナンスは、資金調達の場面と調達資金の運用結果について経営者の資金の出し手である株主や債権者に対する責任が問われる場面という、表裏一体の関係にあり、いわば車の両輪のように密接にリンクしているといえます。現実に、株主総会は一昔前であれば総会屋対策がメインであったのですが、現在はアクティビストファンドなどの敵対的株主対策が主要な問題となりつつあります。また第三者割当増資を行うにしても、前もって監査役や第三者の意見が求められるようになってきています。こうしたことから、当事務所においては、ガバナンスを専門とする弁護士とファイナンスを専門とする弁護士がチームを組んで案件に取り組んでいます。
加えて、当事務所では、経営支配権に関するものをはじめとして会社法・金商法を中心とする紛争案件を成功に導いており、それを平時の予防法務のアドバイスに生かしています。さきほど申し上げた4つの柱のいずれについてもやはり紛争案件をクライアントの満足のいくよう解決することができる力というものも当事務所の強みと考えています。
― 企業関係の訴訟にあたって判例データベースはよく使われますか?
水川 訴訟は、リスクが顕在化し、「勝ち負け」がはっきりする重大な局面です。ですから、過去の裁判所の判断をチェックし、「このような判断になる」ことを把握してクライアントに伝えるために判例データベースを頻繁に使いますが、企業からの日常の相談でも「法的にどうか」「法令はどうなっているのか」「新しい制度ではどうなるか」「新規事業におけるリスクはどうか」といった内容を問われます。その際、判例・裁判例の状況の把握は必要不可欠です。しかも、当事務所は紛争を解決に導く能力を強みとしていますので、徹底したリサーチを行います。
村松 私は、最近も〈Westlaw Japan〉に助けられたばかりです。民事再生法では共益債権について弁済することができるという規定になっていますが、果たして相殺が可能かどうかは文献に記載がありませんでした。〈Westlaw Japan〉で裁判例を調べると、実際に相殺を認めた裁判例を複数見つけることができ、具体的に適用されていることを確認できました。
特定の類型の事件について裁判例を収集したいとき、〈Westlaw Japan〉は特に威力を発揮します。たとえば、事件名の一部を入力すると、事件名の候補をドロップダウンで表示してくれる「事件名検索」という〈Westlaw Japan〉独自の機能がそれです。かつて一緒に仕事をしていた元裁判官の弁護士も活用していました。そういう「プロ」も便利に使える機能なのです。
― 〈Westlaw Japan〉には裁判官名の指定や、キーワード間の文字数を指定できる「Proサーチ(近傍検索)」、判決文に目次を作成して読みたい箇所へ簡単にジャンプできる「目次(iView)」など、便利な独自機能がありますが、他にお使いの機能は?
村松 判例評釈が非常に網羅的で便利です。雑誌記事だけのデータベースもありますが、〈Westlaw Japan〉では大学紀要まで検索でき、網羅性でいえば一番です。また、関連裁判例のリンクも精度が高く、有効です。さらに、〈Westlaw Japan〉では独自掲載の裁判例が多いですが、その判例要旨も信頼できる高いレベルで、自分の探している類型の判例・裁判例かどうかを探すのに大変役立ち、ここも他に大きく差をつけているところだと思います。
― 判例は、独自取材も含め、現在24万件超収録されています。〈Westlaw Japan〉ではなるべく多くの判例を掲載し、ユーザーに選んでいただく方針です。
村松 訴訟を受任する際には、まず裁判所の判断の傾向をつかむため、具体的な判例・裁判例に数多く当たることが非常に重要です。特に、法律の条文が抽象的な規定の場合は裁判例の傾向を踏まえて訴訟戦略を練ることが不可欠ですので、より多くの判例を見て、かんどころをつかむことが重要です。より多くの判例・裁判例を掲載する方針は、ユーザーにとっては非常に役に立ちます。
水川 法解釈に争いがある場合やどのような事実を拾って判断しているのかを見定めるためには、最高裁判決で判断が固まるまでは各地の下級審の判断が重要です。他の判例集に載らない判例・裁判例が載っていること自体、〈WestlawJapan〉を高く評価できるところです。
― 〈Westlaw Japan〉には現行の法令だけでなく、過去の法令改正の履歴も収録されています。弁護士の先生方ですと基本的な法令は調べなくても把握されているかと思いますが、法令を調べるのはどのような場合でしょうか?
村松 条文の適用が問題になるケースでは、やはりその当時の条文が前提となりますので、それらをきちんと読み込むところから始めます。特に会社法ではその必要性が高いと思います。文献を読むときには、当然、その執筆時点の条文が前提となっているので、過去の法令内容を押さえるのは重要です。
水川 会社法や業法は改正が頻繁なので、規定の内容や立法の趣旨がどのように変遷していったのかをチェックし、改正履歴を追う機会は多いです。また、法令の立案担当者が改正の趣旨を説明する書籍や論稿を出していることもあるので、それらも必ず確認しています。
― 企業法務担当者の方々からの強い要望もあり、法律・政省令をはじめとして、告示やパブリッコメント、法律案を収録しています。政令・省令以下の法令等をチェックする機会は多いのでしょうか。
水川< 金商法など政省令に委任されている法令はかなり多いので、常に調査の必要があります。パブリックコメントも、実務上の問題点を指摘しているものが多く、意識してチェックしています。
― 〈 Westlaw Japan〉を導入して、業務はどう変わりましたか?また、〈 Westlaw Japan〉に対するご要望があればお聞かせください。
村松 文字通り活用しています。しばらく〈Westlaw Japan〉が使えない時期があり、他社のデータベースを使いながら「〈Westlaw Japan〉ならこう調べられるのに」と歯がゆく思っていました(笑)。いままた、〈Westlaw Japan〉を使って非常に効率的に作業ができています。
水川 今後も一つでも多くの事例を収録し、さらに判例・裁判例に関するより多くの文献を〈Westlaw Japan〉から直接閲覧できるサービスを拡充して頂ければと思います。
村松
労働事件を担当する場合、通達類は旧労働省と現在の厚生労働省から出されていますが、厚労省のHPには網羅的に掲載されておらず文献内に通達が引用されていても当たれない悩みがあります。これらが充実すれば、画期的なものができるのではないでしょうか。― 最後に、事務所の今後目指すところをうかがいます。
水川 事務所を立ち上げて3年目になります。スタートアップのフェイズはクリアできたので、次のフェイズに向かっているところです。といっても、急激に人数を増やして規模を拡大するということではなく、これまでと同じく少数精鋭を維持しながら、専門性を高め、ブティック型の「強い」事務所に成長させていきたいと思っています。
(※敬称省略)
二重橋法律事務所
弁護士 水川 聡(みずかわ さとし) 氏
2003年 大阪大学法学部卒業
主な業務分野 : 危機管理、不祥事対応、第三者委員会運営支援、役員責任追及訴訟、経営支配権争い(内紛、敵対的企業買収、委任状争奪戦、社長解任)、株主総会指導、取締役会運営支援、ヘルプライン制度構築・外部窓口業務、内部統制・コンプライアンス態勢構築に係る業務、買収防衛策導入、友好的M&A(グループ内組織再編、MBO・非公開化)、資本政策に関する助言、資金調達・リファイナンスに関する助言、その他一般企業法務
二重橋法律事務所
弁護士 村松 頼信(むらまつ よりのぶ) 氏
2007年 京都大学法学部卒業 2009年 京都大学法科大学院修了
主な業務分野 : M&A、各種訴訟・非訟・保全事件、労働法務、コンプライアンス、不祥事対応、刑事事件(経済事犯)、その他一般企業法務