―裁判所書記官のご経験がおありなんですね。
私は大学卒業後裁判所事務官となり、書記官登用試験を経て、東京地裁八王子支部で主に刑事部の仕事をしていました。裁判所書記官の役目は、裁判の証拠、証言の調書、判決書などすべての記録を司ることです。書記官として記録の管理をする視点と、弁護士として、判例などを渉猟する視点は異なっているのですが、私の書記官時代、法律家的な観点で書面を作ることについて「気づき」をもたらしてくれた、ある経験がありました。
書記官の仕事の一つとして、尋問等の結果の要旨をまとめるというものがあります。法廷で証言された内容をどう要約するかに書記官の個性や工夫が表れるのですが、私が所属した裁判部の裁判官は非常に熱心に指導してくださる方で、「ここはよい」「ここはこう直したほうがいい」などと、まるで添削するように丁寧に教えてくださったのです。この経験で、何が問題点かを把握し、その上で主張を要約するという基本を鍛えていただきました。これが、私の法律家としての糧になっていると思っています。
争点を明らかにし、法律構成を組み立てて当事者の主張を明らかにする書面作成は、法律家にとって大変重要なスキルだと思っています。
―お仕事の中で、〈Westlaw Japan〉の判例DBをどのように活用されていますか。
弁護士が判例DBを使う局面で多いのは、依頼者からの相談を受けて、勝ち負けの見通しがどうなのか「当たり」をつけて説明する判断材料として、そして、実際に提訴する際に同種の事案においてどんな決着に至っているかを確認し、訴訟戦略を立てる場合です。仕事のあらゆる場面で、いろいろな裁判例を見た上で自分の主張を確認することも必要です。有用な判例DBの条件は、「網羅性が高い」ということにつきます。いままで複数のデータベースを使用する機会がありましたが、私は〈Westlaw Japan〉の判例DBが一番優れていると評価しています。
〈Westlaw Japan〉判例DBの良さは、下級審の裁判例が他社に比べて圧倒的に多く収録されており、網羅性に優れているというところです。特に、東京地裁民事部判決の充実ぶりは他に例を見ません。最高裁判例や、裁判所ウェブの「裁判例速報」に掲載される重要な裁判例はどのデータベースも速く載せていますが、他社と比べると、ウエストローの速さは際だっています。実際に、仕事で検索していて何回かそれに気付いたことがありました。
さらに、地裁の裁判例では大きく差がついています。判決が出てから掲載までのインターバルが圧倒的に短いのが〈Westlaw Japan〉判例DBの特長で、裁判所ウェブに掲載されてから3日程度、掲載されない判決文も1 ~ 2ヶ月のうちには載せられています。収録されているデータが多いということは、検索して求めることができる同種の事例判例が多いということであり、それだけ裁判の傾向が正確に読みやすいのです。
試みに、平成22年に私自身が何らかの形で関与した裁判について検索してみたところ、その全てが既に収録されていたのには驚きました。〈Westlaw Japan〉判例DBはアップデートも圧倒的に速く、まさに「いまを生きるデータベース」と言えます。ますます早いスピードで対応することが求められている私たち弁護士の世界で必要な条件を実現してくれていると思います。
〈Westlaw Japan〉判例DBのもうひとつの利点が「判例目次」機能です。各社の判例DBには、判決のアウトラインをまとめた「判例要旨」がつけられていますが、限られた字数でまとめるために、どうしても主要な争点に記述が絞られがちで、必要としている情報を見落とす危険がありますし、データベース会社や執筆者によって、どうしても質がばらつきます。
判決の内容を把握するためには要旨だけでは足りず、全文を読む必要があります。しかし判決文は長いものですから、すべてを読み込んでその論旨をつかみ、しかも複数の裁判例を読まなければならないとなると、結構な負担です。
〈Westlaw Japan〉の判例目次は、判決文の事実認定や論理展開の節目に見出しが付けられていて、目次を見渡すことで判決の全体の構造が把握でき、争点がこのぐらいある、と大づかみに把握した上で法律構成の確認と裁判所の判断がどこにあるのかを短時間で確認することが可能で、作業の大幅な時間短縮になります。
―「判例目次」の使い方を、具体的に教えていただけますか。
まず、「事案の概要」を見て、訴訟物を確認します。これを導き出すための法律構成やこれに対する反論がどうなっているか「原告の主張」「被告の主張」をよく確認します。このあたりは判決要旨だけではきちんとつかめません。
判決の内容である「当裁判所の判断」では、裁判官が「どのような事情に基づいて、どう事実認定したか」という論理を追います。ここも要旨を読むだけでは取りこぼしてしまう危険が大きいので、判決文を読み込む必要があるのです。目次機能は、そのポイントを示してくれている大変便利な存在です。
―他に有用な機能はありますか。
「裁判官検索機能」が挙げられます。担当裁判官の過去の裁判例が検索できますので、たとえば提訴した案件の内容と重なる部分をチェックすることで、裁判の見通しがどうか、裁判官の事実認定はどうかを見ていくと、同種の事案にどんな判断を下しているのか、一定の傾向が見えてきます。その裁判官が和解を勧告するタイミングやその金額もつかめますので、依頼者に対して先を見通した的確な説明が可能です。
裁判官の略歴も検索でき、担当裁判官が過去にどの裁判所に赴任し、どんな案件を扱い、どのような判断をしてきたのか、過去に影響力のある判決を出したことがあるかなどを把握することができます。
法律家的な「裏技」としては、修習期をチェックして、同期の弁護士などに問い合わせるという手段も使えます。裁判官の人となりを把握することも、結構重要なのです。
〈Westlaw Japan〉の判例DBでは、この他に、その裁判例に関連するニュースや文献のリンクが張られており、大変参考になります。私は、数ある弁護士の仕事の中でも、「書面を作る」ことに面白さを見いだしています。依頼者の主張のほとんどは、当初はあいまいかつとりとめのないものです。しかし、それを自分の文章で整理し、法律的な争点という形に作り上げるというのが書面作成の仕事で、その過程にやりがいを感じて仕事をしています。
依頼者にとって、裁判をするのは、実は大きなストレスです。そこに自分が持てる知識や技術を駆使して、依頼者の満足が得られる結果を実現させて喜ばれることが、私の励みにつながっています。〈Westlaw Japan〉の判例DBは、これらの仕事を強力にアシストしてくれる「強い味方」なのです。