WESTLAW INTERNATIONAL 顧客事例WESTLAW INTERNATIONAL 顧客事例:NTTドコモ

リーガルリスクを想定し、開発部門と緊密に連携。海外文献DBで最新議論を把握、国内初の事例に備え、社内判断材料を提供。

―ドコモ社内での法務部の位置づけを教えていただけますか。

ドコモの場合、法務的な事項は、法務部が全部の責任を負っています。知的財産の権利化、すなわち特許や商標などの出願、管理、社内掘り起こしなどは知的財産部の担当ですが、ライセンス契約、訴訟、アライアンス交渉などは法務部が担当する住み分けになっています。

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―主にどのような業務内容ですか。

法務部の主業務は法務相談ですが、ドコモの特色は、新サービスへの関与の大きさでしょう。当社は電気通信事業者として、モバイルインターネットの新サービスを次々と開発しています。新サービスは前例がありません。前例のないサービスを世の中に出すとき、第一に、サービス自体の法的な問題点の有無をつめる必要がありますし、第二に、そのサービスの社会的影響についても法的な観点から検討する必要がでてきます。

たとえば、青少年にふさわしくないコンテンツの流通に対し、ユーザーをどう守るか。あるいは、今いる場所付近の店舗情報や交通情報などを提供する位置情報サービスで、プライバシーをどこまで守るか。サービス提供者の意図していない使われ方が登場し、意図していないリーガルリスクが発生する恐れがあります。開発部門と緊密に、かつ早い段階から連携し、新サービスの構想段階から、法務部がプロジェクトに参加して、「こういうサービスをやると、こういうリスクがある、そのためにはこういうスペックを用意した方がいい」とインプットできるのが理想的です。

業界リーダーとしての心構え

業界リーダー企業として、事業環境を法的な観点から整えるのも仕事です。90年代後半に携帯メール・サービスの登場に伴い、2000年前半ごろ、迷惑メールが問題化したときがありました。ところが、規制する法律がない。ちょうど米国で似たような事例があったので、われわれは州レベルでどのように対応をしているのかを海外DB等を利用して調べ報告しました。具体的には、オプトイン(メールを受けると選んだ人にだけ送る)、オプトアウト(不要と選択した人には送らない)という手法があることを知り、日本に法律を作るのであれば、その組み合わせが望ましい、と考えました。

―法関連DBはどのように使っていますか。

前例のないサービスを出す当社にとって、「過去 判例」から答えが見つかることは、なかなかありま せん。そのため、法関連DBは「過去判例」だけでなく、法律系雑誌などで専門家などが語る「最新 のオピニオン」などを参考にします。

その点、英米法DBのWLIは、米国のロージャーナルの記事が網羅されているので、必要不可欠です。法的なイシューはまず米国で議論される。たとえば個人情報保護に関して、少し前はGoogleの「ストリートビュー」が、個人の家の形状がわかってしまうため、ロージャーナル上で議論になりました。

米国での議論の行方を注視

リーガル先進国・米国での議論、法学者の意見、研究、トレンドなどを参考にしながら、会社として、法廷で判例によって白黒がつくよりも前に判断し、方向性を出していかなければなりません。

―最近はどのような事例にかかわられたのでしょう。

代表例は、モバイル空間統計サービスです。当社は、ドコモのお客さまがどの基地局とつながっているのか、次にどの局に移動したのかを把握できているので、人々が朝、昼、夜どのように動くのか、集団としての傾向がつかめます。こうした情報は、政府にとっては災害時の避難経路提供などに役立ちますし、企業にとっては貴重なマーケティング情報ですので、お役立てしたいわけですが、外部提供に当たって、「個人の属性をいかに消すか」が非常に重要になります。プライバシーについて、お客さまの懸念を完全に払拭したサービスにしなければなりません。

開発サイドはここで「技術的、統計的に個人の属を消すことはできる、だから大丈夫」という意見もありましたが、われわれ法務部はそれだけでは不十分と考えました。属性を物理的に消せたとしても、たとえば人口が非常に少ない村では、人物が特定できてしまうおそれがあるからです。結果的に、人口密度一定レベル以下のエリアではデータ採取をしない、オプトアウト機能も搭載する、などの枠組みに落ち着きました。

第三者的な視点でサービスをチェック

また少し前、子ども用の「キッズケータイ」に、防犯 目的で自分のお子さんがどこにいるのか位置情報のわかるサービスを搭載したときがありまし た。ここでは位置を検索される子どものプライ バシーの扱い方が焦点でした。子どものプライバ シーを親が管理できるのか。できるとして、子どもの承諾は必要なのか。必要な場合、その都度必要 なのか、それとも事前一括でいいのか…などなど。 プライバシーに大人・子どもの区別はないんです ね。都度同意だと、たとえば緊急時、お子さん自 身が操作しないと位置がわからないのではサー ビスとして機能したことにならないという問題も ありました。

いずれも、単に「法律に違反する、しない」の間の 線引きではなく、個人情報保護の議論の方向性、 他国の立法例などをWLIなどのDBで入念に調べ たうえで、当社として、サービス性とプライバシー をどう保護すべきかのバランスを十分検討し、きびしめの線でスタートしました。事業部に対し、第 三者的な視点から法的リスクを判断し、意見する。 いわば社内のチェック機能を果たしているといえ るでしょう。

―どのような法務部を目指していらっしゃいますか。

スタッフに求められる資質としては、まず足腰、すな わち契約書の審査、訴訟、M&A、法務研修…など の業務に関する基本的な素養があります。加えて、 ドコモ法務部は、私を含め、約1/3は中途入社組 です。商社、銀行、家電、自動車、証券…いろいろな 業種、企業から入っています。さまざまなイシュー が出たとき、だれかが以前の職場で似たような 事例を経験していて、「このケースはこうだ」と土 地勘を持っていることが多い。自然と多様なバック グラウンドを持つ人たちが集まり、新卒採用の活 力ある若手社員とともに貴重な戦力になっていま す。他社の法務部に比べユニークな点は、より一 層ビジネス視点に立った柔軟性が求められること でしょうか。法律を「知っている」のはもちろん、感 性、想像力の点でプロビジネスであり、マインド セットが前向きでなければなりません。これはダメ、 あれもダメ、ではビジネスは進みませんから。当社 法務部のミッション・ステートメント第1 項は、 ソリューション・プロバイダーたれ、です。問題解決 法をいかに提供できるかが存在意義ですから、 これを33名の部員には徹底しています。

内外に開かれた「道場」目指す

今目指しているのは、「開かれた法務部」です。ひと つは「対社外」。日本でもロースクールが発足し、 弁護士資格を持つ人材が増えていますから、今後 は彼らを企業が使っていくことになります。米国 ではもう何十年も前から企業が弁護士を使い、 法務部員は全員弁護士です。日本でも弁護士 事務所と企業の間の垣根が低くなって、人材の流動 化が進むでしょう。将来的には弁護士事務所からドコモ法務部に入り、また当社スタッフから弁護士 事務所に移る、こういった動きに対応した組織設 計を考えていかなければならないと思います。

もうひとつは「対社内」の開放ですね。私はかねて法務部は「道場」と言っています。一度配属される WLJ056_201106_FD と一生法務部、ではなく、専門家をそろえる一方、 社員が3~4年、リーガルマインドを学ぶ「道場」としても機能すべきだと思っているんです。営業、技術はじめ社内のさまざまなセクションのリーダー的 人材が法務「道場」で修行し、また元の職場に戻る。 それによって、個々人のリーガルマインドが高まり、 全社的なリーガルマインド度が上がる─これこそが真のコンプライアンス体制だと思っています。

「社内開放」を進めるうえで重要なのは、部内の “知恵”のデータベース化です。6年ぐらい前から 社内の全案件のデータベース化を進めていて、契 約書、損害賠償や権利処理の規定、相談回答事例 などがすべて出てきます。新しいスタッフもこのDBにアクセスすれば、過去の知恵がすぐわかる仕 組みです。こうした社内のDBとウエストローのよ うな専門のDBが連携できるようになれば、最高ですね。

 

NTTドコモ/法務室長 中村 豊 氏
【中村 豊 氏の略歴】
1986年 九州大学法学部卒、
川崎製鉄(現JFEスチール)入社(法務部配属)
1993年  ワシントン大学ロースクール修了、
ニューヨーク州弁護士登録
1999年 NTTドコモ入社
2004年 法務室長
2006年 より現職

 

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