資本主義化の波に乗り、伸長著しい中国法の世界。知財や独禁法など行政機関との連携が必要な法制度も整えられ、産業伸長のための 法や制度の整備が急で、しかも変更が多い。日本の法制度にない解釈もある。広く深い海の中から、最強の検索機能で得られた 結果が瞬時に整理される〈Westlaw China〉は頼れる指針だ。今回は、中国ビジネスのアドバイザーとして長いキャリアを誇る大江橋 法律事務所の中国人弁護士らにご登場いただいた。最新の中国ビジネス法情報と〈Westlaw China〉活用法について伺った。
―大江橋法律事務所は、早くから中国に進出していることで知られていますが、日本にある事務所との連携はどう行われているのでしょうか。
褚 大江橋法律事務所は、大阪事務所に約70人、東京事務所に約40人の弁護士を擁する法律事務所ですが、上海事務所は、中国政府が外国の法律事務所の活動を認めた1995年からの古い歴史があります。上海事務所では、基本的に日本にある事務所が顧客から受けた仕事を行いますが、その際には中国にある法律事務所と連携して業務を行うこともあります。
―中国の法制度は20年ほどで急速に整備されました。経済政策が大きく変わり、また産業も大きく発展しています。法律事務所の業務としては、どのような変化があったでしょうか。
紀 日本企業のニーズの変化や中国の経済発展が進むにつれて、サービスの内容は大きく変わりました。現在まで一貫して取り扱っている主な業務は、日本から中国への投資案件の関連です。M&A・企業再編や、それにともなう現地の環境整備や知財紛争などの法律問題まで、処理しなければならない法律問題はたくさんあります。さらに2006年頃からは、中国の経済発展にともなう労働案件が多く出てくるようになりました。これも目立った変化といえます。さらなる転機が中国経済に訪れました。「独禁法の時代」です。独占禁止法が整備され、政府機関によるコントロールのもと自由競争が認められる余地が大きくなりました。さらに、「大きな市場」としても世界から認知されるようになり、販売ルートの法整備などが行われています。このような中国経済全体の変化が、新しい法的サービスを生んでいるのです。
単なる「世界の工場」からビジネスの現場へ変貌しつつある中国経済の勢いは激しく、いまでは中国企業による日本企業買収の案件も出るようになりました。それにつれて、中国企業からの日本法に関する相談、日本企業の買収に関する相談も増えています。商標の登録、拠点づくり、日本での販売契約作成などの仕事や、日本の破産会社の資産を買収して日本進出の足がかりとする仕事などが、私たちの新しい仕事となっています。但し、その数はまだ、目立って多いわけではありません。
―中国の法制度も大きく変貌していますが、それについての日本企業の認識はどうでしょうか。
紀 1980年代の開放政策以来、中国ビジネスは立法によって大きく変わりました。大きなところでは2005年の会社法の修正、07年の法人税法の改正、08年の独占禁止法の施行、08年の労働契約法の施行と次々に行われ、法的な留意点やサービスの内容も変わっています。
それに対する日本企業の認識ですが、格差が大きいというのが率直な感想です。もちろん企業によるのですが、大手企業では中国法の知識や法的対応についてはかなり力が入れられており、企業の担当者レベルでの理解は相当深まっていますが、最近は中小企業も中国投資を行うことが多くなり、中には中国法に関する知識がまったくない企業もあります。そんなクライアントには、中国の法構造を一から説明しなければならないこともあり、どのように対応するかが課題だと感じています。
日本企業が中国企業とビジネスをする際に注意すべきなのは、日本的な感覚は通用しないということです。契約締結の際には、当然ながら契約書など書面が重視されるという認識を持つべきです。
孫 中国進出が早く、規模の大きなクライアントからは、現在はより専門性の高い相談を受けるようになっており、中国ビジネスの深化を実感します。日本の大企業では中国法の一般的な知識がすでに浸透しており、法務担当者が弁護士に頼らずに解決できるだけの、かなり高いスキルを持っているのではないかと感じることもあります。
―中国は国策で知財立国を目指していますね。日本企業にどんな影響があるでしょうか。
紀 知財の仕事は増えており、相談も多く受けています。近年になり特許法、商標法などの修正が多数行われているので、その動向にも注意が必要です。
日本企業との関係では、大きな枠組みの変化があります。かつては日本からの技術譲渡のみの流れで、保証条項をどう設定するかという業務が主でしたが、最近では、継受した技術を二次的に加工したり、それを中国企業が自らの知財とする場合の手続などの案件が増えています。これを日本企業の立場から見れば、技術流失をどう防ぐか、再開発や後続技術の所有権が誰に帰するのかという権利を確定したり、予防したり、争ったりすることになります。
経済発展で技術者が増え、技術力をつけてきている中国企業からは、自前の技術を持ちたい、世界的レベルに肩を並べたいという意欲が強く、どうやって権利を取得すべきかという相談が多く持ち込まれています。
孫 まさに技術移転の問題が、中国知財ビジネスの焦点になっていると感じています。
―独禁法もだいぶ整備されてきました。
紀 中国の独禁法は08年に制定・施行されました。日本の公正取引委員会にあたる、独禁法を運用する政府機関として、事業者集中の審査については商務機関(外資投資の管轄機関)、カルテルや協同行為などについては工商行政管理局、価格カルテルについては発展改革委員会の所管とに分かれています。しかし、事業者集中の審査事例以外にはまだ適用される事例が少ないのが実情です。日本の企業からも運用がどうなっているのかという相談を受けますが、独禁法上の違反や処罰の基準について政府機関はまだ経験が浅く、政府から詳細なガイドラインがまだ出されていない段階なので、運用の実際については状況を注視し続ける必要があると思っています。
―日々の業務の中で、中国法のリーガル・リサーチはどのように行われているのでしょうか。
紀 そうですね。法令については冊子の法令集を調べると同時に、Yahoo、Googleなど検索エンジンも利用しますが、北京大学や〈WestlawChina〉などの有料データベースを使うことも多いです。中国の法律実務は今や政令も行政機関の施策を左右しますから、そのチェックも欠かせません。
判例については、中国では裁判例に拘束力がなく、また、裁判官の質が異なるので、裁判所によって判断が食い違うことがよくあります。ですから、裁判例は絶対的な物差しとはならないのです。但し、最高裁の判例としては、各地方の裁判所に一定の指導意義が存在することに注意する必要があります。
では、法解釈はどのように行われているかというと、中国独特の「司法解釈」があり、それに注意すべきです。中国の法律は条文数が少なく、条文そのものも簡潔なので解釈の余地が大きいのです。そこで最高人民法院(最高裁)が、統一的な法律解釈の運用指針を出しています。
この司法解釈は、下級審(高級人民法院、中級人民法院、基礎人民法院)を拘束するので大変重要ですが、さらに解釈が変更されたり適用範囲が変えられることがありますので、常にチェックすることが必要です。これは中国の最高人民法院の公報に掲載され、ウェブページでも公表されます。時には日本のパブリックコメント募集のように、意見の募集が出る場合もあります。
孫 司法解釈は、法律の解釈について下級の人民法院を指導して指針を与えるものなのですが、最近は法律の解釈そのものになっているのが現状です。そもそも立法機関がやるべき解釈を、司法が肩代わりしているのではないかという批判が出ているのです。
また、先ほど紀から、中国の判例には拘束力がないというお話をしましたが、裁判例の中から典型的な判断をまとめる作業が始まっており、そこから裁判規範を定立する作業が進んでいます。判例を先例として効力を持たせようという動きだと思われます。
―リサーチの中で〈Westlaw China〉はどのようにお使いでしょうか?
褚 政令や細かい司法解釈などはデータベースに頼ることが多いですね。〈WestlawChina〉は冊子の法令集の次に使う機会が多いです。法令だけでなく政令なども細かく収録され、司法解釈も収録されているので大変使い勝手がよいデータベースです。
中でもキーワード検索が使いやすく、検索結果がすでに法令、政令、司法解釈など、項目分けされて出てくるので、とてもわかりやすいです。これはとても大きな魅力です。
さらに検索結果を時系列に並べることができるのも大きな利点です。中国は法改正が多く、条文自体が数でよく変わるので、最新の法令を確認するのはもちろん、過去の法令についても「○年○月○日に適用されていた法令」を特定できる〈Westlaw China〉は大変便利です。
―〈Westlaw China〉では、「キーナンバーシステム」を実装しています。2万7000件の法律概念を分類し、ナンバーを振ったもので、論点の整理や、判決や司法解釈のインデックスとしても使うことができます。〈Westlaw China〉は、isino Lawというデータベースを統合し、判例数が90万件と大幅に増えていますが、そのような実感はありますか?
褚 数年前に比べれば、たくさん出てくるようになりました。便利さが数段アップしたと感じています。
孫 私は、〈Westlaw China〉に英訳が付けられているのがとても便利だと思います。相談を受けてメモや意見書を作成する際、「クライアントに法律原文をお見せしたい」と思うことが度々ありますが、日本語訳がない中国の法律がまだ存在するのです。英文でクライアントにお見せすることができれば、例えば日本の法務担当者にも通じるので、便利な項目です。
また、政府機関の内部通達や通知は、法律の運用を理解するため重要でかつ日常的にニーズがあり、当然ながら日本企業にとっても重要ですが、多岐にわたるので整理するのは本当に困難です。特に外貨関係では頻繁に出され、なおかつ以前出た通達・通知が無効になることも多いので、ウォッチを続けることが必要です。〈Westlaw China〉は他のデータベースの中でも、最も利便性を追求しながら整理されており、いつから有効か、どの部分が改変されているかが一目ではっきりと分かり、大変信頼が置けると評価しています。
私自身が〈Westlaw China〉で特に愛用しているのは、法令の改正や施行日にメールで知らせてくれる「法令アラート」です。通知を受けてクライアントに注意喚起のための情報を伝えるなど、私は様々に活用しており、大変便利なサービスです。
(※敬称省略)
弁護士法人 大江橋法律事務所
http://www.ohebashi.com/
外国法事務弁護士 / 紀 群 氏(き・ぐん Ji Qun)
外国法研究員 / 孫 宇川 氏(そん・うせん Sun Yuchuan)
外国法研究員/ 褚 云卿 氏 (ちょ・うんきょう Chu Yunqing)