判例コラム
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第93回 「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」の批准なるか

おおとり総合法律事務所弁護士
専修大学法科大学院教授
矢澤 昇治

国際結婚した夫婦が破綻し、離婚に際して子を奪い合う事件が多発している。古くは、最判昭和53年6月29日の人身保護請求事件(家月30-11-50)があった。平成21年には、新聞紙上をこの奪取事件が幾つか取り上げられた。第1に、九州は柳川。日本人母が、離婚後に子どもを連れて米国から帰国。米国人父が来日し連れ去り容疑で逮捕された事件、第2に、岐阜県に住む日本人看護師の夫のチェコ人が長男を連れ出したまま所在不明となっている事件、第3に、娘2人を中国に連れ帰った中国人元夫に国外移送誘拐罪で有罪判決を下された事件である。

この種の事件では、元夫も妻も子どもに多大な愛情を抱いている場合もあるが、連れ去られた子どもが虐待を受けている(DV)場合もある。わが国では離婚に際し、欧米と異なり、片親だけが親権を有することとなり、年少の子どもが母親に引き取られることも多いのであるが、家庭を維持する資力がないなど事態は、深刻である。

渉外離婚事件を担当した小職の経験では、国際婚姻した夫婦にとどまらず、わが国で同国籍の外国人夫婦が離婚した後、日本と外国に別れて生活するときにも、日本国籍を有しない子どもに対する国境を超えた「面接交渉権」が深刻な問題となった。加えて、幼少の子どもが夫婦の母国語を話すことができないなどの難問もある。事は、日本国籍を有する子どもだけに関わる問題でないと云うことである。

2010年1月7日の朝日新聞では、「子の奪取」に関するハーグ条約(1983年発効)への加盟検討が加速との記事が掲載された。かねてより、国連の子どもの権利委員会から批准を勧告されているわが国は、どのような対応をしたらよいのであろうか。私は、子の福祉を図るために、養育する監護権の手続が国境を超えて移動する前の国で行われるべきとの考え方に基づくこのルールを採用する前になすべきことがあると思う。離婚後における親権と監護権の共同制の採用と面接交渉の確実な実現そして扶養料の履行確保である。

30余年の昔、ストラスブール第3大学(現ロベール・シュウマン大学)に留学していたときに、ある離婚した友人の自宅に招待された。その友人曰く。婚姻中以上に離婚後に元夫婦が協力して、子どもの監護・養育をする必要があるというのだ。法システムの原則が共同親権・監護となっているからだ。そのとき表現されたことに違和感を覚えたが、わが国でも現実に必要となっている。

(掲載日 2010年2月1日)

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