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第26回 保険法はみにくいアヒルの子?

法務省 民事局 民事法制管理官
萩本 修

「保険法」という新しい法律が成立し、2008年6月6日に公布された(平成20年法律第56号)。公布から2年以内に施行される。

保険法は、商法の中にあった保険に関する契約ルールを取り出して全面的に改正し、独立の法律にしたものである。これまでも、保険に関する契約ルールのことを構学上は保険法とか保険契約法と呼んでいたので、保険法の制定は、保険法の改正とか保険法の現代化とも言われている。商法が制定されたのは明治時代(1899年)なので、実に100年ぶりの改正である。

つい最近、商法から生まれた法律といえば、もちろん会社法である。会社法は商法から独立する際、有限会社法や商法特例法などを統合して大きくなった。親よりも子のほうが大きく立派で、注目度も高い。もともと会社法は商事法の中核であり商法の屋台骨であったから、会社法が抜けた後の商法には悲愴感すら漂う。

会社法と比べると、今回の保険法はだいぶ色合いが異なる。「保険法なんてあったっけ?」「保険に関する法律って保険業法じゃないの?」と言われるくらい、その存在はあまり知られていなかったと思われる。商法の中の保険契約に関する規定はその大半が任意規定であり、保険会社が商法の規定と異なる内容の約款を定めればそちらが商法の規定よりも優先していたから、肥大化した実務の約款ばかりが注目を集め、法律の規定に日が当たらないのも致し方ないことであった。

しかも、商法から生まれたにもかかわらず、保険法は商事法の仲間とは言いにくくなってしまったような気がする。商法の保険契約に関する規定は営利保険に適用され、非営利の共済契約には適用されない、まさに商事法であったが、保険法は、保険と呼ぼうが共済と呼ぼうが、事業主体が保険会社であろうが協同組合等であろうが、契約の中身が同じであれば、保険契約と共済契約のどちらにも共通に適用される法律に生まれ変わったからである。その意味で、商事法から生まれながら商事法でなくなった「みにくいアヒルの子」なのかもしれない。

でも、保険法は生まれ変わって伝家の宝刀を獲得した。それは片面的強行規定である。契約者保護を強化するため、保険法では相当数の規定が片面的強行規定とされたから、これに反する特約で契約者に不利なものは無効となる。保険会社や共済団体が自分たちに一方的に都合がよいような内容を約款に盛り込んでも、約款のその部分は伝家の宝刀によって否定されるわけだ。

そうすると、これからは否応なしに、実務の約款だけでなく、法律の規定にも注目せざるを得なくなるであろう。みにくいアヒルの子は契約者を保護する美しい白鳥になれるのではないか。保険法が正しく理解され、保険や共済の契約ルールを定める基本法として実務に定着することを期待したい。

(掲載日 2008年9月8日)

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