判例コラム
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第173号 養子縁組をした受刑者に対して信書の発受を禁止した決定は、違法であるか 

~「親族」から除外するために養子縁組の成立を無効とする新たな手法の採用の可否(東京高判平成31年4月10日)~

文献番号 2019WLJCC018
おおとり総合法律事務所 弁護士
矢澤 昇治

東京高判平31年4月10日(東京高裁平29(行コ)246号信書発受禁止処分取消等請求控訴事件)※1、第一審東京地判平27年7月11日(東京地裁平27(行ウ)735号信書発受禁止処分取消等請求事件)※2


参照条文:民法802条、憲法21条及び32条、国際人権(自由権)規約14条1項、19条2項等の国際準則、刑事収容法45条及び128条、被収容者の外部交通に関する訓令の運用について(依命通達)[平成19年矯成第3350号矯正局長依命通達]

第1 事案の概要
 1 事案の要旨

 2 判決主文

 3 関連法文

 4 前提事実

第2 争点と当事者の主張

第3 裁判所の判決要旨
 1 東京地裁の判決

 2 東京高裁の判決

第4 本件判決を理解するための前提
 1 本件判決で注目すべきこと:信書発受の禁止を実現するために「親族」という身分関係の成立を争う方法が違法であること

 2 監獄法における親族の信書の発受

 3 自由権規約の採択後にも存続した監獄法

 4 刑事収容法95条及び128条(信書の発受の禁止)(旧95条)

 5 刑事収容法128条の規定の「親族」の前提となる同法45条の親族

 6 親族間での信書発受禁止の裁判例

 現行法上、受刑者とその親族の間での信書の発受が原則的に許容されるとしても、発受が禁止され得る場合とはどのようであるかを過去の裁判例から見ることにする。本件判決が「親族」という身分関係の無効・不存在を主張したのとは異なり、過去における裁判例では、行刑当局は、親族関係の存在を前提に信書の発受禁止処分をしてきた。

第5 本件の評釈
1 本件の争点

 本件の争点は、(1)控訴人X1の訴えの適法性であり、控訴人X1の訴えのうち、同控訴人がDの訴訟手続を承継したことに基づく部分(33万3333円及びこれに対する遅延損害金の支払請求)が適法か否か、(2)本件決定の違法性の有無であり、刑務所長が本件決定をしたことについて、国家賠償法1条1項にいう違法があるか否か、(3)故意又は過失の有無であり、刑務所長が本件決定をしたことについて、故意又は過失があるか否か、(4) 損害の有無及びその額であり、控訴人X1及びDの損害の有無及びその額である。


2 本コラムでは、争点(1)と(2)を取り上げるにとどめる。
 (1) 争点(1)の本件訴えの適法性の有無について

3 本件判決の位置づけ

4 性的少数者の人権について

【エピローグ】

 このコラムを執筆する過程で、裁判例⑮でも取り上げた平7(行ツ)66号発信不許可処分取消等請求事件につき、本件訴訟代理人である海渡雄一氏が死刑確定者Sに対して拘置所長がした新聞に対する投稿の自由が制限されたという信書不許可処分の違法を説く上告理由に接した。その冒頭では、「本件は死刑確定者の刑事施設内における法的な地位とその外部交通権についてのリーディングケースである。本件の真の争点は、上告人が主張するように、死刑確定者が人間として人権の主体として認められるのか、あるいは、被上告人が主張するように、生きながらにして屍としてその生命に対する権利、内心の自由という根源的な人権を否定された存在なのかというところにある。」と記載されている。筆者は、第二東京弁護士会人権擁護委員会に設置された死刑制度廃止検討委員会の部長を勤めてきたが、この間1947年に福岡市で発生した殺人事件で主犯とされたNの死刑判決に疑念を生じ、教誨師であった古川泰龍氏の著書を再現する作業もした(『真相究明書 ― 九千万人のなかの孤独』(花伝社、1991年))。現在のわが国においては、未だ死刑制度が存置され、拘置所には、生きる屍として人権を享受できない死刑確定者がいる。また、再審請求をなしえず処刑された菊池事件のFや飯塚事件のKもいる。これらの確定死刑囚に対する人権蹂躙と同質の処遇が、現在でも、刑務所などの収容施設においても公然となされている事を確認することができよう。被拘禁者、受刑者には、外部交通の方法、わけても信書の発受が極めて限定されているのだ。そして、再審の道は閉ざされ、十全たる防御権が確保されない事態にある。本件は、刑務所長が養子縁組の成立を否定する挙に出て、「親族」に保障される信書の発受を実現不能にしようとする愚行である。
  当職の事務所の玄関には、Nの画いた観音像に古川泰龍氏が「君看双眼色、不語似無憂」の書を添えた絵がある。この絵を見るたびに、無実の罪で死刑台に吊るされたNを思い偲び、また、収容施設にいる被拘禁者、受刑者らに対する処遇の酷さ、そして、それらの者から我々弁護士への信書も直接の発受すら拒否されている法状況を鑑みるに、国際人権諸条約が定める人権擁護の事態を確保すべく歩みたいと考える次第である。

【資料1:裁判例】

 ここでは、外部交通の一手段たる信書の発受禁止処分を中心に表現の自由に係る裁判例を紹介する。ただし、網羅的でないことを了解いただきたい。

【資料2 弁護士会による勧告と要望】

 ここでは、ネット等で筆者が把握できたわが国の単位弁護士会から出された刑務所長や拘置所長宛の勧告書と意見書を参考までに取り上げた。調査を重ねるならば、これらの勧告書や意見書が氷山の一角であると推測できる。直近から時系列的に遡る形で掲載した。日弁連『人権侵犯申立事件 警告・勧告要望例集 第4巻』から、2つの侵害を取り上げた。

(掲載日 2019年7月17日)

(掲載日 2019年7月17日)

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