判例コラム
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第140号 犯人性を立証するための唯一の証拠が、現場資料について行われたDNA型鑑定である公然わいせつ被疑事件 

~変異精原細胞が出現したことの根拠もないのに、本件現場資料が混合資料である可能性を、合理的な疑いを差し挟む余地のないものとして排除できるか(平成30年5月10日最高裁第一小法廷判決)~

文献番号 2018WLJCC016
専修大学法科大学院教授 弁護士
矢澤 昇治

最高裁第一小法廷(平29年(あ)882号邸宅侵入、公然わいせつ被疑事件)平成30年5月10日判決※1、控訴審大阪高裁(平28(う)1079号)平成29年4月27日判決※2 、第一審大阪地裁堺支部(平27(わ)247号)平成28年9月21日判決※3


【法令の適用】罰条 邸宅侵入の点 刑法130条前段、公然わいせつの点 刑法174条、科刑上一罪の処理 刑法54条1項後段、10条(邸宅侵入と公然わいせつの間には、手段結果の関係があるので、1罪として重い邸宅侵入罪の刑で処断)、刑種の選択 懲役刑を選択、累犯加重 刑法56条1項、57条(累犯前科との関係で再犯)、未決勾留日数算入 刑法21条、訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)


【参照条文】刑事訴訟法405条、406条、386条、411条、414条

第1 本件公訴事実並びに第一審判決及び控訴審の要旨

 1 本件公訴事実の要旨

 2 第一審判決


 3 控訴審判決

   大阪高裁は、原判決を破棄し、被告人を無罪であると判決した。理解を深めていただくために、できるだけ判決原文を引用した。


第2 最高裁判決

平成30年5月10日、最高裁第一小法廷は、
 「検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。」としながらも、「所論に鑑み、職権をもって調査すると、原判決は、刑訴法411条3号により破棄を免れない。」として、以下に記載する理由で、「原判決を破棄する。本件控訴を棄却する。」との判決を下した。

 1 当審までの経緯


第3 検討(1)-本件現場資料は一人分に由来するか-
 1 第一審判決の問題点

 2 科捜研によるDNA型鑑定

 3 鈴木鑑定人による鑑定-DNA型鑑定の信用性崩壊の危機-


第4 検討(2)-控訴審における事実誤認の審査-
 1 控訴審の判断が正鵠を得ていること


 2 最高裁による職権破棄事由


第5 本件事件判決が袴田事件に及ぼした、また、及ぼし得る影響
 1 本件事件判決が袴田事件に及ぼした影響

2 本件事件判決が袴田第二次再審特別抗告審に及ぼす影響への懸念

 即時抗告審における鈴木鑑定は、着衣に付着した血液のDNA型の再鑑定ではなく、本田克己教授による鑑定方法の鑑定(または、単なる意見)に過ぎない。つまり、鈴木鑑定は、付着した血液の再鑑定を実施していないのである。鈴木教授は、なぜ血液のDNA型鑑定のために、細胞の抽出を履践しないのかとの当然の疑問が生じよう。端的に言えば、鈴木教授は細胞を抽出して、DNA鑑定をすることができないからではないのか。
 DNA鑑定に使用するための細胞を抽出する技量を有しない鑑定人が他者の鑑定方法を否定する愚かさに怒りを禁じ得ない。着衣から抽出された細胞から袴田巌のDNA型が検出された訳でもないのに、袴田巌が確定死刑囚であり続ける理由はないといわなければならない ※21。袴田事件は、まさしく警察と検察による捏造事件に他ならないのであり、DNA鑑定や味噌漬けの着衣の色合いが取り立てて論ぜられるべきではない。いつの間に、凶器とされた栗小刀などによる虚構の犯行は、雲散霧消したのであろうか。
  最後に、筆者は、大いに懸念することがある。本件は、最高裁第一小法廷で判断された。著反正義を理由に、破棄自判した本最高裁判決の認定は、論理則、経験則等に照らして不合理であり、得心できない。

(掲載日 2018年7月9日)

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