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判例コラム
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第138号 労働契約法20条の解釈基準 

~有期労働契約により就労するトラック運転手の労働条件と労働契約法20条違反の成否~
~~最高裁第二小法廷平成30年6月1日判決 ハマキョウレックス事件※1~~

文献番号 2018WLJCC014
明治大学 教授
野川 忍

1.はじめに

 本件は、労働契約法(以下「労契法」という。)20条の適用に関する典型的な事案について、最高裁としての基本的な立場を宣明した注目すべき事案であり、ここで示された同条の解釈基準は、今後の同条をめぐる議論に強い影響力を有することが想定されるとともに、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違をどのように処理するかについて、実務上の有益な判断基準を提供するものとなろう。

2.本件の概要と原審までの判断

 第一審原告・被上告人Xは、自動車運送業を営む上告人Y会社に配車ドライバーとして有期労働契約を締結し、「契約社員」として配送業務に従事していた。Y社の配車ドライバーには無期労働契約により就労している者(正社員)とXのように有期労働契約により就労している者が併存しており、それぞれに適用すべき就業規則も異なっている。Xら契約社員は、時給により給与が算定され、通勤手当は支給されるものの、一時金(賞与)及び退職金をはじめ、正社員に支給される多くの諸手当が支給されない。そこでXが、一時金、退職金、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当の支給及び定期昇給の有無につき労契法20条に照らし不合理な労働条件の相違があるとして、正社員と同一の権利があることの確認、各手当等の差額の請求、予備的に損害賠償と遅延損害金の請求を行った事案である。
 Y社の正社員就業規則には、Y社は業務上必要がある場合は従業員の就業場所の変更を命ずることができる旨の定めがあり、正社員については出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるが、本件契約社員就業規則には配転又は出向に関する定めはなく、契約社員については就業場所の変更や出向は予定されていない。また、正社員については、公正に評価された職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、従業員の適正な処遇と配置を行うとともに、教育訓練の実施による能力の開発と人材の育成、活用に資することを目的として、等級役職制度が設けられているが、契約社員についてはこのような制度は設けられていない。
 本件は、大津地裁彦根支部に係属した差戻し前の第一審(大津地彦根支判平27.5.29Westlaw Japan文献番号2015WLJPCA05296007)以来、訴訟手続き上の若干複雑な経緯を経て、控訴審において差し戻され(大阪高判平27.7.31Westlaw Japan文献番号2015WLJPCA07316005)、差戻し後の第一審(大津地彦根支判平27.9.16労判1135号59頁・Westlaw Japan文献番号2015WLJPCA09166001)では、通勤手当についてのみ不合理性が認められて1万円の損害賠償が認められた。
 差戻し後の控訴審(大阪高判平28.7.26Westlaw Japan文献番号2016WLJPCA07266001)では、労契法の適用は有期契約労働者と無期契約労働者との間に労働条件の相違があることが、両者の違いを「理由として」いる場合に認められるとして、労契法の施行通達※2 を引用し、また判断要素の一つである「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」については、やはり施行通達※3 を引用したうえで、「人材活用の仕組みと運用」を意味するとし、「その他の事情」とは「合理的な労使の慣行等の諸事情」であるとの解釈を示した。さらに、不合理性の主張立証責任については、労働者において、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者において、当該労働条件が不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負うとした。これらを前提に各手当等について具体的な検討をほどこし、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当について、それぞれ優良ドライバーの育成、特殊業務に対する手当、給食の補助など、人材活用の仕組みと運用には無関係であって不合理であるとしつつ、労契法20条違反の法的効果は、違法・無効とされた労働条件の相違につき就業規則、労働協約等の規定が補充されると認められる場合は別として、一般的に無期契約労働者と同一の権利を有するとは認められず、地位確認請求も差額請求も棄却されるとした。しかし、Xは不合理性が認められた各手当につき、不支給額と同額の損害を被ったものと認めてそれぞれの額と遅延損害金の支払が命じられた。

3.最高裁判決の概要

 (長澤運輸事件※4と共通の判断部分)

4.判旨の意義

 上述のように、本件は労契法20条に関する判断枠組みとして広く一般性のある内容であり、今後の同種事案に対する基本的な先例となることは間違いない。この点、注目すべきは、同条に関するいわば限界事例を扱った長澤運輸事件と同日に最高裁が判断を示したことである。最高裁は、2時間だけ遅れて出した長澤運輸事件判決において、いくつかの判断につき本件ハマキョウレックス事件判決の内容を引用している。すなわち、最高裁としては、一方で、これら二つの事件に共通の判断基準をいくつか示すことで、労契法20条の普遍的な解釈基準と言える判断を明示し、他方で、両事件に固有の判断基準(特に長澤運輸事件固有の判断基準)をも明示して、ごく限定的な事例にのみ適用し得る判断を、そうであることが理解できるかたちで確認したものと言える。

5.労契法20条の趣旨と不合理性の意味

 本件判決の最大の意義は、これまで労契法20条についてさまざまに議論されてきた多くの論点について、最高裁としての立場を明示したことにある。3に掲げた判旨のうち、①は、同条の基本的意義を確認したものであり、とりわけ同条が、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であることを明示した意義は大きい。これにより、同条が均等待遇を意味した規定ではなく均衡処遇を求めていること、その均衡処遇は職務の内容等の違いに応じて均衡が確保されていなければならないことが確認された。②~④は、①のいわば具体化であって、いずれもこれまでの裁判例、学説において多数を占めていた見解の追認と言える内容である。⑤も、①の基本的趣旨から導かれる帰結であって、特別な補充規範等がない限り、不合理性が認められた場合であっても、当該有期契約労働者の労働条件が比較対象となる無期契約労働者の労働条件と同一になるものでないことを示した。これにより、一般的には、賃金格差の場合の差額請求権等は認められず、損害賠償請求による処理がなされることとなる。
 これらに対し、⑥は、今後に議論をもたらす問題のある判旨である。最高裁は、労契法20条で禁止されているのは労働条件格差の「不合理性」であって、それが合理的であることが求められているわけではない、というこれまでの下級審裁判例をオーソライズした。しかし、その論拠は必ずしも明確ではない。
 まず、そもそも「不合理」とは「合理」を打ち消す概念であって、まさに「合理性がない」という意味であり、国語の一般的解釈として、「不合理であってはならない」とは「合理性がないとされるものであってはならない」という意味にとるのが自然である。また、労契法20条は行為規範でもあるところ、有期契約労働者の労働条件について対処しようとする使用者にとって「合理的である必要はなく、不合理でさえなければよい」などという規範は行為規範としての意味を有し得ない(このように言われた使用者はどうすればよいか途方に暮れるであろう)。
 さらに、判旨は「両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い」として、これらの点が、「合理的でなくてもよいのであってあくまでも不合理でなければよい」ことの例証となり得ると主張したいようである。しかし、当然ながら、不合理性判断に当たっては、経営判断はどのような場合でも尊重されるわけではなく、それが、労働条件格差の均衡を判断するに当たって考慮すべき「理にかなった」ものである場合であろう。たとえば「我が社では有期契約労働者には厳しく対応し、正社員の半額以上の手当は与えないこととしている」などという「経営判断」まで一律に「尊重すべき」と言っているわけではない。また、労使間の交渉は、まさに合理性を裏付ける重要な要素であって、「合理的ではないが不合理ではない」ことを正当化する要素ではない。この点は、労契法自身が類比可能な場合について明示しているところと言える。すなわち同法10条は、不利益変更された就業規則規定の合理性を判断するための要素として、労働組合等との交渉の状況を挙げている。「不利益であるが合理的である」ことを担保する要素として労使交渉が挙げられているのであれば、ひるがえって、「格差はあるが合理性はある」ことを判断するためにも、労使交渉は当然検討されるべき要素であろう。すなわち経営判断も労使交渉も、「合理的ではないが不合理ではない」ことを正当化する要素ではなく、まさに「一定の合理性がある」ことを示す要素である。
 実は、この点は⑦との関連で理解することが必要である。⑦において最高裁は、不合理であってはならないとは合理的でなければならないという意味ではない、ということの趣旨を、主張立証責任の分配の問題として説明しており、使用者側がいきなり「格差はあるが合理的だ」ということを主張立証する必要がないことを強調しているのであるが、確かに、このように主張立証責任の分配という観点からは、同法20条があくまで「不合理性」を禁止しているのだという解釈は意味があろう。しかしながら、従来の裁判例からも明らかなように、実際には、多くの事案において裁判所は、問題となった労働条件ごとに、合理性を認め得る事情の存否を検討しているのであり、労働条件の格差が「合理的な理由に基づいて行われているものであるか否かが問われる」と明言している裁判例さえ存在する(九水運輸商事事件(福岡地小倉支判平30.2.1Westlaw Japan文献番号2018WLJPCA02016001))。そうすると、最高裁がこのように主張立証責任を解しても、今後の下級審は、当該格差に不合理性を想定させる一応の疎明があれば、実質的にそれが合理性のあるものであることを使用者側に主張立証させることになる可能性は大きい。それは、解雇権濫用法理の形成過程において、民法627条が存在するにもかかわらず、裁判所は、解雇権濫用を主張する労働者側が、当該労働者が他の労働者と比して特に問題のある就労実態ではなかったことを主張立証すれば、解雇に正当な理由があることを使用者側に主張立証させるように実質的な主張立証責任の転換をはかる傾向を強め、それが最高裁において現行労契法16条と同様の解雇権濫用法理が明示される遠因になった経緯に照らしても十分に生じ得る事態であろう。解雇権濫用法理の形成過程では、実定法の条文はまさに民法627条において「解雇の自由」を明示していたのであって、民事的にこれを明確に否定する規定はなかったにもかかわらず、上記のような状況が生じたのである。これに対して、不合理性に関する主張立証責任については、そもそも労契法20条の「不合理と認められるものであってはならない」が国語の一般的解釈のうえで「合理性のあるものでなければならない」と解するのが自然であるという事情があることを踏まえれば、この立証立証責任の実質的転換の可能性はいっそう高まることが想定されよう。
 こうした問題点はあるが、総じて、判旨が控訴審の判断を踏襲し、併せて皆勤手当についても不合理性を認めた結論は大きな意義を有する。しかしこれも、皆勤手当という「労働条件の相違は、不合理であると評価することができる」という部分を「合理性があるとは言えない」と代えても全く問題は生じないのであって、「合理的である必要はないが不合理であってはならない」という判断基準はここでも生かされてはいない。
 こうして、長澤運輸事件の場合とは異なり普遍性のある判断を示したハマキョウレックス事件においても、最高裁はなお議論をはらむ判断を残したと言えよう。

6.個別労働条件の不合理性判断について

 判旨は、控訴審が第一審とは異なって不合理な格差であることを認めた無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当に加え、皆勤手当の格差も不合理であることを指摘し、結果としてXが差額もしくは損害賠償を請求した労働条件のうち、一時金、退職金、住宅手当を除く5つについて不合理性を認めた。いずれも、職務の内容等に照らして、格差があることの理由が立たないことを指摘しており、この点はうなづける。また、諸手当のうち、住宅手当の格差に不合理性を認めなかった論拠は、契約社員には転居を伴う配転が予定されていないこととされ、これは職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることの反映と言えるので、ただちに不当な判断とは言えないであろう。
 一時金と退職金については、契約社員と正社員との職務の内容等に相違があれば、これらの賃金項目は労働者の就労に対する評価や総合判断を前提とするものであることを踏まえると、その相違をただちに不合理とすることは困難である。しかし、これについては、仮に契約社員に全く支給されない場合には異なる判断もあり得ることと、後述のように割合的認定を用いたより適切な判断手法もあり得ることは指摘しておきたい。

7.労契法20条違反の効果

 判旨は、具体的判断において5つの労働条件につき不合理性を認定したが、最高裁において認定された皆勤手当を含め、労契法20条に反する不合理性が認定された場合の法的効果として、特に新たな判断を示してはいない。しかし、この点は、いわゆる「割合的認定」の手法を示した日本郵便(東京)事件(東京地判平29.9.14Westlaw Japan文献番号2017WLJPCA09146001)の判断枠組みに照らし、最高裁の判断が待たれるところである。同一労働同一賃金の理念は、今般の「働き方改革」関連法案において重視されているが、労契法20条は、パート労働法8条とともに右理念をどう生かすかが問われる規定であると言える。割合的認定という考え方は、本件でも長澤運輸事件でも不合理性が否定された賞与や基本給等中心的な賃金項目に関する格差につき適切な判断を導くために重要な観点であると思われるが、この点は別稿※6を 参照されたい。

8.展望

 上述のとおり、最高裁判決は、労契法20条が適用されるべきモデル事案ともいうべき本件において、同条の基本的な解釈基準を示し、その多くは実質的にも一定の先例性を肯定できる内容であった。しかし、「不合理性」の意義について同条の裁判規範としての役割に拘泥しすぎて硬直的な対応をもたらす懸念があること、及び不合理性が認められた場合の損害賠償額認定の処理基準など、なお議論の必要な論点も少なくない。「パート・有期労働法」が制定されたあかつきには同条は削除されて同法の8条に合体される予定であるが、それを踏まえ、今後は、上述の点を中心に、労契法20条の適切な運用のための検討が一層深まることが期待される。


(掲載日 2018年6月14日)

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