判例コラム
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第118号 シンプルな棚の商品表示性、被告商品の類似性の肯定判断 

~無印良品vsカインズ(東京地裁平成29年8月31日判決)※1

文献番号 2017WLJCC026
弁護士法人苗村法律事務所※2
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子

1.はじめに

 冒頭から身も蓋もない話で恐縮であるが、商品の形態について、不正競争防止法上の商品表示性が認められるか否か、また、原告商品形態に対して被告商品形態の類似性が認められるか否かは、担当裁判官によって極めて主観的な判断がなされているのではないかと思っている※3。たとえば、その商品を以前に見たことがある、興味を持っていた、全然知らなかった等々。
 筆者は、訴訟担当弁護士として、何度か、商品の形態やパッケージに関して、原告代理人として、不正競争防止法2条1項1号の周知表示の冒用行為に関し、使用差止請求、損害賠償請求事件の代理人として訴訟活動を行ってきているが、その際の感想でもあり、今回のコラムの対象となった判例や参考判例を検証しての感想でもある。
 本件では、原告が販売するシンプルな棚の特徴を特定して捉えて、商品表示性を認め、かつ被告商品が原告の商品表示を冒用しているとして、被告商品の販売差止め、廃棄を認めている。私は、MUJIラーではないので、この棚の形態が無印良品ブランドの周知な棚であることを知らなかった。カインズが、「ありふれた」形態だとしたことにもそれなりに頷かされるものがある。一方で、原告商品と被告商品は、新聞記事中の両方を並べた写真からは、間違い探しでも分からないくらい酷似しているのが特徴である。このあたりをヒントに、なぜ、この原告商品である棚の形態が商品表示性を認められ、販売差止めまで認められたのか、他の事件との違いも検討しながら、その裁判所の判断過程を見ていこう。

2.商品の形態やパッケージの周知性のある商品表示性の認定基準

 商品形態は、標章等とは違い、それ自体、出所を表示することを目的としておらず、直ちに商品表示といえるものではないが、これまで判例は、それが、(1)特別顕著な特徴を持ち、かつ、(2)長年の販売や、広告宣伝により、周知になることによって、出所表示機能を有するに至れば、商品表示性を獲得する場合があるとの判断基準を用いて認定してきている。(2)の基準は、周知性の獲得による商品表示性の該当という、本来別の要件である、商品表示該当性とその商品表示の周知性を合わせて判断しているもので、要件ごとの関連性を示しているものと思われる。応用美術といわれる工芸品にも著作権を認めたとして画期的な判決とされるTRIPP TRAPP事件控訴審判決※4でも同じ基準が採用されている。

3.本判決の認定基準への当てはめ

 本判決は、株式会社良品計画が原告となって、無印良品のブランドで平成9年頃から販売してきたユニットシェルフという組立て式の棚の形態に商品表示性があり、株式会社カインズが類似の棚を販売しているとして不正競争防止法2条1項1号の周知表示冒用行為に該当するとして、販売差止めを求めて訴えたものである。原告がユニットシェルフの商品表示を、①帆立の特徴的な形状、②帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねた形であること、③横桟の数より少ない棚板、④背側X状のクロスバー、⑤横桟、クロスバーの直径の細い棒材の形状、⑥帆立、クロスバー、棚板のみの骨組み様の外観の6つの特徴を述べて特定したところ、判決は、⑥について、①~⑤の特定の形態を、全て組み合わせ、全体としてこれらの要素のみから構成されるものと捉え、かつこれに付加する要素がなく、原告の商品形態は、多くの選択肢から選択された形態であるとして、それにより、シンプルですっきりした印象を与える外観であるとの特徴を有するもので、需要者に強い印象を与えるものであったとし、平成16年頃には客観的に他の同種製品と識別しうる顕著な特徴を有していたと認めることが相当だとした。被告が原告の挙げる6つの特徴はいずれもありふれたものであるとしたのに対して、判決は、これらの形態を組み合わせたものがありふれているかを検討すべきとし※5、また、それぞれの特徴が機能に由来する不可避のものであるとの主張に対しても、異なる態様を取ることが出来るとして、また、6つの特徴の組み合わせであることも勘案すると機能的な不可避性はないとした。

4.他の判決の商品表示性に関する形態の特徴のとらえ方

 上述のTRIPP TRAPP事件控訴審判決では、控訴人(一審原告)は、7つの特徴を挙げていたが、判決は、側面から見た場合、L字型をしていて、角度が66度である点、および、椅子の側面に溝が切られ、座面と足置き部材がはめ込んで固定している点の2点だけを取りあげ、これに2本足であること※6を付加して,この3つの点に特別顕著性を認めた。判決は周知性に関しては、この特別顕著と認めた3点により周知になったかといった観点では検討せず、相当多数販売されたことを以て、控訴人の椅子自体の商品形態が周知表示になったとしている。
 もう一つ取りあげたいのが、リモワのスーツケース事件である※7。原告は、スーツケースに施されたリブが特徴だとしてそのリブについて4つの要素をあげて特別顕著性を主張していたが、判決は、これらの特徴に、加えて、キャスター取付けのため、底面部を少し切欠いた部分が設けられ、そこに2輪ずつ計8輪のキャスターが取り付けられているとの2点を加えた点が特徴だとして特別顕著性を認めた。

5.判決の認める特徴と類比判断

 本判決、TRIPP TRAPP事件控訴審判決、リモワ事件判決、いずれも、商品の形態に商品表示性を認めているが、本判決は、原告の⑥の特徴について、原告が特定した①~⑤の特徴を組み合わせ、それに付加するものがないと、原告の挙げる特徴とは異なる特徴を認定し、TRIPP TRAPP事件控訴審判決は、控訴人の示した7つの特徴のうち、2つだけを特徴とし、リモワ事件判決は、原告の示した4つの特徴の他に、主張されていない特徴を付加して、それぞれ特別顕著性を認めた。なぜ、裁判所は、このように、商品表示性について、これを認める場合にも、原告の主張と異なる認定をするのであろうか?
 本判決では、類似性の程度が高く、問題としては浮かび上がってこないが、TRIPP TRAPP事件やリモワ事件では、類似性の判断において、これらの裁判所の特徴の付加や限定が意味を持ってくる。
 TRIPP TRAPP事件控訴審判決は、2本足の点を特徴に加えていたが、被控訴人の製品は、4本足になっており、特別顕著性に関する特徴の一部を欠いているため、類似性があるとはいえないとして侵害の主張を退けた。またリモワ事件では、被告商品のキャスター取付部に切欠部がないことおよび、スーツケースの中央部が若干膨らんでいること等を以て類似性がないと判断している。
 これらの判決から、商品表示性を認める際に、原告の主張を認めるのではなく、裁判所自ら、特徴を決めるのは、被告商品形態の非類似をいわんがためのように思える。本判決は、原告のユニットシェルフと被告商品形態との類似性を認めたが、①~⑤の特徴に「付加する要素がない」との認定には、もし原告の挙げる特徴の①~⑤のうちの一部でも被告商品表示に変わったところがあったり、何かが付け足されていたら、裁判所は非類似と判断するとのメッセージが込められているように思える。
 周知性については、各判例は、商品形態の特徴的だとした点を以て判断しているわけではなく、商品形態全体の広告宣伝等による露出で以て認定しているように思われる。広告宣伝では、どこに特別顕著性があるかはわざわざ文字にしていることはまれであることから、この点は、それで良かろう。
 しかし、一旦、周知な商品表示と判断した後は、類比判断に関して、標章についての類比判断についていわれているとおり、商品形態全体を離隔観察して、類似性を決めるべきではないだろうか。TRIPP TRAPP事件で控訴人が、4本足になっているのは些細な相違だとしたのは(全ての商品についてそういえるかについては、にわかに控訴人の見解に賛同できないが)、首肯できるように思う。リモワ事件でも、全体を離隔観察すれば、キャスター取付部の切欠部の存否は気にならず、類似性は肯定できるのではないだろうか?

6.周知表示冒用行為の類比判断と被告のフリーライドの意思

 裁判所には、周知表示冒用行為については、いわゆるデッドコピーといわれる程度に、原告の商品表示と酷似している場合に限ろうとする考えがあるのではないかと疑ってしまう。
 被告側がよく主張するところであるが、商品形態について、周知表示だと認めることは、その表示について独占権を認めるに等しく、意匠登録もしていない商品表示にそのような強大な独占権を付与することになるのは避けるべきであり、従ってその適用は限定されるべきだという観点に配慮しているのかも知れない。
 しかしながら、不正競争防止法は、事業者が長期間、または短期間であれば相当額の費用を掛けて行った商品の周知のための努力にフリーライドする者の行為を、不正な行為として違法とするものである。
 周知性、類似性と共に周知表示冒用行為の成立要件である「混同のおそれ」は、いわゆるフリーライドに当たり得る表示であるかを問う、周知表示冒用行為の中心となる要件である。原告において、混同のおそれについて、一定の立証ができ、この要件が認められる、すなわち需要者において被告商品を原告商品と混同するおそれがあるなら、その場合には、類似性についても認めてもよいのではないかと考える。
 もし、フリーライドの意思がないというのであれば、被告側で、その形態を選ぶに至った過程に、原告商品形態へのフリーライドの意思がなかったことを反証させればよいのではないだろうか?被告が原告の商品形態とは別に被告商品形態を作り上げたといえれば、類比判断において、厳密に類似性を判断することによって、被告商品形態の原告商品形態への冒用行為ではないとの結論を導けば、実務的にはバランスのとれた判断ができると考える。


(掲載日 2017年10月30日)

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