判例コラム
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第88号 ピカソ作品の著作権侵害に基づく損害賠償請求事件 

~カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか~

文献番号 2016WLJCC026
専修大学法科大学院教授
弁護士 矢澤昇治

知財高裁(平26(ネ)10019号損害賠償請求控訴事件・平26(ネ)10023号損害賠償請求附帯控訴事件)平成28年6月22日判決※1、原審東京地裁(平24(ワ)268号損害賠償請求事件)平成25年12月20日判決※2
 参照条文:「法の適用に関する通則法」7条(法例7条1項)、8条(法例7条2項)、13条(法例10条)、14条(法例11条1項)、17条(法例11条)、「民法」249条、256条、423条、428条、898条、918条、「民事訴訟法」30条、54条、118条、「著作権法」32条、47条、47条の2、112条、114条、117条、「著作権法施行令」7条の2、「著作権法施行規則」4条の2、「著作権等管理事業法」13条、「フランス民法」745条、765条、815条、815条の1~815条の3、815条の6、815条の9、1843条の2、1873条の1~1873条の3、1873条の5、1873条の6、1873条の8、「フランス民事訴訟法」509条、「1985年7月3日付けフランス共和国著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」38条、「知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律」321条の1条、331条の2、「ベルヌ条約」14条の3

第1 事案の概要等

1 事案の概要

 本件は、①フランス共和国法人である原告協会が、その会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下、「会員作品」という。)の著作権の移転を受け、著作権者として著作権を管理し、②原告X1が、亡パブロ・ピカソ(以下、「ピカソ」という。)の美術作品(以下、「ピカソ作品」という。)の著作権について、フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって、訴訟当事者として裁判上において、同財産を代表する権限を有すると主張した上で、原告らが、被告に対し、被告は、被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下、「本件オークション」という。)のために作成したカタログ(以下、「本件カタログ」という。)に、原告らの利用許諾を得ることなく、会員作品及びピカソ作品の写真を掲載しているから、原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求ないし悪意の場合の不当利得返還請求として、 ア 原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、 イ 原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である(請求額は原審段階のものである。)。

  原審は、平成25年12月20日、原告らの請求のうち、原告協会については、4094万4350円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を、原告X1については、441万7000円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を認容する旨の判決を言い渡したところ、原告X1及び被告は、敗訴部分につき全部控訴し、原告協会は、敗訴部分につき全部附帯控訴した。

  その後、当審において、原告らは請求を拡張し、最終的な被告に対する請求内容は、原告協会については、1億8125万4733円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金であり、原告X1については、2209万0832円及びこれに対する同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。

  被告は、全ての請求について棄却を求めるとともに、原告X1の原告適格を争い、原告X1の訴えについては本案前の答弁として却下を求めた。

2 前提事実

(1)原告ら
ア 原告協会

  原告協会は、フランス共和国において、1986年11月7日、「1985年7月3日付けフランス共和国著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」38条の規定(当該規定は、「知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律」(Code de la propriete intellectuelle)321の1条1項に引き継がれている。)※3に基づき、グラフィックアート及び造形芸術の作家の著作権使用料に関する使用料徴収分配を目的として設立された法人である。

  原告協会は、その定款に賛同して加入した会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から会員作品の著作権管理の委託を受け、その著作権管理(利用許諾、使用料徴収、訴訟提起等)を行っている。

イ 原告X1

  原告X1は、1973年4月8日に死亡したピカソの相続人の1人である。原告X1は、パリ大審裁判所の1989年3月24日付け急速審理命令(以下、「本件急速審理命令」 という。)により、不分割共同財産であるピカソの著作権の管理者(代表者)に指名された。

ウ 原告らの日本国内における著作権管理

  原告協会は、日本国内における著作権管理に関し、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録された一般社団法人美術著作権協会(以下、「SPDA」※5という。)に対し、著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していた。また、原告X1も、SPDAに対し、ピカソ作品の著作権管理を委託していた。

  その後、日本国内における美術の著作物の著作権管理を一本化する目的で、一般社団法人日本美術著作権協会(以下、「JASPAR」※6という。)が平成24年1月に設立された。JASPARは、同年2月1日、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録され、同年3月23日、その使用料規程を文化庁長官に届け出、同年4月23日より著作権管理業務を開始した。現在、原告協会は、JASPARに対し、著作権管理を委託している。

(2)被告((株)毎日オークション)※7

  被告は、平成13年10月1日、株式会社毎日コミュニケーションズからの会社分割により設立されたオークション、展覧会の企画、立案、実施等を目的とする株式会社である。

(3)本件オークション

  本件オークションでは、①絵画・版画・彫刻、②西洋装飾美術、③ジュエリー&ウォッチ、④日本陶芸・茶道具・古美術の4つのジャンルが設定され、そのジャンルごとに公開入札方式でオークションが開催された(オークション開催日の2~3日前に下見会が開催された。)。被告は、平成14年1月から平成22年12月までの9年間に、少なくとも95回(105冊のオークションカタログを発行)の絵画・版画・彫刻ジャンルのオークションを開催した。

(4)本件カタログ

  本件カタログ(A4版型)は、オークションの開催期日ごとに作成され、被告の会員に配布された(本件カタログにはオークションの回数が号番号として付される。)。被告は、本件カタログの作成に際し、掲載する作品の写真撮影、掲載する内容、掲載方法等を決定し、本件カタログには、作品の写真、題号、作者、内容の説明、予想落札価格等が掲載された。

(5)原告協会と被告との和解

  原告協会と被告とは、平成22年9月21日、東京地方裁判所平成21年(ワ)第232号事件において、①被告は、原告協会に対し、マリー・ローランサン、マルク・シャガール及びジャン・ピエール・カシニョールの美術作品を平成21年12月31日までの間本件カタログに無断複製した著作権侵害につき、SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金として3306万4000円を支払う、②原告協会と被告は、上記①以外の会員作品を本件カタログに無断複製した著作権侵害につき、SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金を基礎として清算処理の協議を行うことを合意する、③被告は、原告協会に対し、上記②の清算処理が完了するまでは、会員作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで本件カタログに複製しないことを確約する、などを内容とする和解を成立させた(以下、「前件和解」という。)。しかし、原告協会と被告との間で、清算処理の協議は完了していない。

  なお、本件における原告協会の請求は、前件和解契約の債務不履行責任を追及するものではない。

(6)SPDAの使用料規程

  SPDAの使用料規程のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。
 「3.出版等

印刷、写真・複写、その他の方法により著作物を可視的に複製する場合の使用料は、一著作物に対し下記料率を適用する。但し委託者の同意がある場合は、利用許諾契約において、下記使用料を下廻る金額を定めることができる。

  (1)書籍(モノグラフィーを除く)(源泉税10%を含む)
  イ 単行本(教科書を含む)/(単位:円)

  (5001部以上は、略)」

(7)JASPARの使用料規程

  JASPARの使用料規程のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。
 「第1 総則

1 一般社団法人日本美術著作権協会(以下、「本協会」という。)が実施する著作権等管理事業において適用する著作物使用料は記の区、下分に応じて、第2の(1)ないし(4)に定める額とする。

  使用料の区分

1 書籍への複製及び譲渡
国際標準図書番号(ISBNコード)が付され書籍の形式で刊行する印刷物又はこれに準ずる印刷物への複製及びその譲渡。ただし、書籍の表紙(表1・表4)若しくはカバーに複製する場合、モノグラフィー若しくはその大部分が特定の作家の作品により構成される書籍に複製する場合、又は解題付き類別目録(カタログ・レゾネ)を作成する場合を除く。(以下略)」

  「第2 著作物使用料

1 書籍

  (1) 単行本{(2)に含まれるものを除く}
  ア 基準料金

  (以下、中略)

  (2) 文庫版、新書版又はそれに準じる版型のもの。
  基準料金・優遇料金ともに、上記(1)の料金の80%とする。」

第2 争点

(1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1)

(2) 著作権移転の有無(争点2)

(3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)

(4) 利用許諾の有無(争点4)

(5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)

(6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)

(7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)

第3 本判決の判旨

1 原告X1の当事者適格の有無(争点1)について

   「渉外的要素を含む法定訴訟担当については、訴訟担当権限が被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合には、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無を判断するのが相当である。」

   「法の適用に関する通則法7条は、法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法によると規定するが、ピカソの相続人は、フランス民法の不分割共同財産の制度を利用するのであるから、フランス法を選択する意思であったと解され、フランス法により原告X1の訴訟担当権限の有無を判断するのが相当である。そして、フランス民法1873条の6第1項は、(不分割共同財産の)『管理者は、あるいは民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する。』と規定し、原告X1は、不分割共同財産であるP〔ピカソ〕の著作権の管理者(代表者)であるから、訴訟上の当事者として、本件訴訟について当事者適格を有する。(〔〕内は筆者)」

2 著作権移転の有無(争点2)について

(1)準拠法について

   「著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、移転の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。

   まず、著作権の移転の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断するに、法の適用に関する通則法7条により、第一次的には当事者の選択に従ってその準拠法が定められるべきである。そして、フランス法人である原告協会と会員(大部分がフランス人)との間の著作権移転に関する契約については、フランス法を選択する意思であったと解される。

   次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について判断するに、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、法の適用に関する通則法13条は、その趣旨に基づくものである。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。このように、著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるが、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、原告協会と会員との間の著作権移転に関する契約が締結されたことにより、著作権は会員から原告協会に移転することになる。」

(2)原告協会と会員との著作権移転に関する契約について

   「原告協会の会員は、原告協会に加入することにより、その著作権が移転することを同意していたものと認められるから、原告協会に対する著作権の移転があったと認められ、その他著作権の移転を否定する事情は見当たらない。」

   「『apport』を移転の意義に解することに特段の支障はないというべきである。」

(3)「本件は、不法行為に基づく損害賠償請求であり、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については、我が国の法令(民法、著作権法)が適用される。そして、我が国の法令では、著作権侵害があれば不法行為が成立するのであり、著作権の移転後に譲渡人が死亡したとしても、不法行為の成否が左右されることはない」。

3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)について

(1)被告の複製権侵害の態様について

   「複製権侵害が認められる限り、美術作品の売買を取り扱う被告には、複製権侵害についての故意又は過失が認められる。」

   「複製の態様は、複製権侵害の程度を示すものではあっても、違法性の有無の判断に関わるものではなく、損害額の算定と結び付くものであるから、ここでは、複製の態様と損害論を併せて検討する。

   そして、当裁判所は、後記のとおり、著作権法114条3項の損害額を算定するについては、SPDAの使用料規程に基づくのが相当であると判断するものであり、上記のとおり、複製の態様の判断が損害額の算定と結び付くものであることに鑑みれば、複製の態様の認定においても、SPDAの基準に基づいて複製の態様を認定するのが相当である。」

ア 色について

   「損害額の検討の前提となる複製の態様の検討に当たっては、白黒写真かカラー写真かで区別すべきであるから、カラー写真についてはモノクロ写真か否かを検討する必要はない」

イ サイズについて

   「美術の著作物を書籍に複製する場合には、通常は作品を撮影した写真を使用するものであり、その場合、背景や額縁の大きさ等は写真の撮影態様によって様々であるから、画一的な判断基準として写真の大きさが基準とされているとみるのが相当であり、SPDAの使用規程においても写真の大きさが基準とされていると判断するのが相当である。

   すなわち、著作物自体のサイズではなく、写真の余白部分や写真に撮影された背景、額縁を含めた写真のサイズとして判断するのが相当である。」「ここでの問題は、著作権侵害の有無の問題ではなく、SPDAの使用料規程における使用料額算定の基礎となる写真のサイズの問題であるから、両者は観点を異にし、異なる判断基準により判断されるべきものである。」

(2)原告らの損害額について

ア 「原告らは、著作権法114条3項による使用料相当損害額として、主位的に、JASPARの使用料規程に基づいて算定すべきである旨主張する。

   しかしながら、JASPARの使用料規程は、本件の複製権侵害行為の後の平成24年に定められたものであって、本件においては、JASPARの使用料規程を算定に使用することが相当であるとはいい難いし、その他相当であることを肯定できる事情は見当たらないから、原告らの主張は理由がない。」

イ 「原告らは、著作権法114条3項に基づいて損害賠償を請求するものであり、被告の複製権侵害について受けるべき金銭の額としては、原告らがSPDAに対して著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していたことに照らすと、その算定においては、SPDAの使用料規程に従うのが相当である。」

   「以上に照らし、原告協会の使用料相当損害額を算定すると、127AAの本件カタログ318号に係る複製及び157Dに係る複製を除いて、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりとなる。」

4 利用許諾の有無(争点4)について

   「本件における『apport』については、団体への出資という形態をとっており、対外的には団体へ財産が移転するが、団体と加入者の間では内部的に条件や留保が付されている前提の文言として使用されていると解するのが相当である。」

   「『apport』により、原告協会へ著作権が『移転』するというべきである。」

   「原告協会は、平成21年12月まで、AB作品の著作権管理を行っていたこと、ギャルリーためながは、平成22年1月、ABから我が国における著作権管理の委託を受けたこと、被告は、ギャルリーためながに対し、本件カタログに係るAB作品の利用について許諾を求めたことはなく、ギャルリーためながは、被告に対し、本件カタログに係るAB作品の利用を許諾したことがないこと、現在、原告協会は、再びAB作品の著作権管理を行っていることが認められる。

   以上に照らすと、被告が本件カタログに係るAB作品の利用について許諾を受けたとは認められない。」

5 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)について

   「著作権法47条は、『美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二十五条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。』と規定する。このように『小冊子』は『観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする』ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは、『小冊子』に当たらないと解するのが相当である。」

6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)について

   「著作権法32条1項は、『公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。』と規定するから、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が、報道、批評、研究等の引用するための各目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。」

   「そうすると、本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が、本件オークションにおける売買という目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。」

7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)について

   「著作権法47条の2は、美術の著作物又は写真の著作物の原作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において、原作品等を譲渡又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、一定の措置を講じることを条件に、当該著作物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように、著作権法47条の2は、一定の措置を講じることを条件に、複製権又は公衆送信権を制限するものであるから、そのような措置が講じられなければ、複製権又は公衆送信権の侵害であることに変わりはないし、同規定が遡及適用されるものでもない。」

   「そうすると、著作権法47条の2の新設により、同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償を請求することや、同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使することが権利濫用であるとはいい難いし、その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められない。

   したがって、被告の主張は理由がない。」

8 不当利得返還請求について

    「原告らは、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求とを選択的に併合しているから、上記のとおり、不法行為に基づく損害賠償が認められなかった部分について、不当利得返還請求の可否が問題となる」。

    「通則法14条によれば、不当利得返還請求権の成立及び効力は、『原因となる事実が発生した地の法による』とされているところ、本件では、被告の本件カタログにおける会員作品及びピカソ作品の写真掲載が、『原因となる事実』に該当するから、その発生地は我が国であり、我が国の法令が適用される。同法15条は、同法14条の規定にかかわらず、より密接な関係地がある場合には、当該地の法を準拠法とすることを許容しているが、本件ではそのような例外が適当といえるような事情は認められない」。

    「そして、民法704条によれば、悪意の受益者は、法律上の原因なくして、他人の損失をもって利益を受けた場合、受益額を返還する必要があるところ、被告の本件カタログにおける会員作品及びピカソ作品の写真掲載が許される法的根拠は存在せず、被告は当時のSPDAの使用料規程に従った掲載料の利得を得る一方で、原告らは同額の損失を受け、それらに因果関係があり、また、被告がオークションの実施等をその営業目的とする以上、写真の掲載について悪意と認められるから、SPDAの使用料規程に基づいて算定された使用料相当額について、不当利得返還請求及びその附帯請求が認められることになる」。

    「この場合、上記で認められた使用料相当額は、不法行為に基づく損害賠償請求権の額を超えることはないから、上記不法行為に基づく使用料相当損害金とは別に不当利得返還請求を認める余地はない」。

第4 検討
はじめに

   本判決は、ピカソの作品の著作権について、フランス法に基づく不分割共同財産の管理者であった原告らが我が国の法人である被告主催のオークションのために作成したカタログに、原告らの利用許諾を得ることなく、ピカソ作品や原告協会の会員の作品を掲載したことから、原告らの複製権を侵害しているなどと主張して不法行為に基づく損害賠償請求、また、悪意の場合の不当利得返還請求について判断をしたが、当事者の主張と反論が多岐に及んでいる。それらの争点の1つでも判例解説や批評のテーマとなりうるものであるが、本稿では、これらの全ての争点について網羅的な解説を試みた。引用する裁判例や学説には遺漏や省略もある。また、判例解説が長文に及んだことに御理解を賜りたい。

1 原告X1の当事者適格の有無について(争点1)
1-1 当事者適格の準拠法的アプローチ

(1)当事者適格とは、ある特定の権利又は法律関係について原告又は被告として訴訟を追行し、本案判決を求めることができる訴訟上の資格である。これを当事者の権能という観点からみると、ある訴訟物につき訴訟追行権を有する者が当事者適格者であり、正当な当事者である。そして当事者適格の有無は、特定の訴訟物について当該の原告、被告間に本案判決をなすことが、その訴訟物をめぐる紛争解決にとって有効、適切であるかどうかによって決せられる※8

(2)学説 渉外訴訟事件においては、この当事者適格をめぐり、それが手続であるか実体であるかの法性決定が問題とされた。学説は、細部においては、多様である。まず、(A)当事者適格の存否は実体問題であるから、準拠実質法に拠るべきとする見解(準拠実質法説)※9があり、それに対して、(B)当事者適格の存否は手続問題として法廷地法に拠るが、その判断に必要な限りにおいて準拠実質法を参照すべきとする見解(法廷地法説)※10、しかし、この法性決定を重視せず、当事者適格の存否を個別類型化する学説として、(C)当事者適格の存否を一律に手続または実体のいずれかとして性格付けるのではなく、個別類型化したうえで、各類型に即して準拠法を決定すべきとする見解(個別類型化説)※11がある。この個別類型時を考慮する学説※12として、外国訴訟法の適用と日本訴訟法の適用のいずれが妥当であるかを判断すべきとする説や当事者適格に関する外国法の規定も適用すべきとする説※13がある。また、端的に、(D)訴訟担当権限が被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生する場合には、訴訟担当権限の有無は準拠実質法により判断する一方、そうでない場合には法廷地手続法により判断するとの見解※14がある。

(3)裁判例 裁判例を見ると、基本的にB説が支配的であった。すなわち、当事者適格の問題は、何人に当事者として訴訟追行権限を認めるかは、法的紛争の解決を有効かつ適切に行うという視点から判断されるべき事項として、まず、法廷地手続法に委ねられ、次いで、訴訟追行権限の移転が一定の実質法上の法律関係の存在を前提にしている場合には、法廷地手続法の視点から訴訟追行権限の移転の合理的必要性・妥当性を判断するための前提として、かかる実質法上の法律関係が成立しているか否かを確認する必要があり、この確認作業の一環として、当該法律関係の準拠実質法を参照することが要請されるとして処理されてきた。そして、法定訴訟担当に関する場合と任意訴訟担当の場合に区分してみるに、法定訴訟担当に関する裁判例としては、我が国民法423条を法廷地手続法として位置付け、債権者代位権に基づく法定訴訟担当権限を肯定したものがある。また、外国倒産手続により選任された管財人の当事者適格について、原則として我が国の手続法によるが、当事者適格を基礎付ける管理処分権の有無および範囲等については、倒産準拠法を参照するとした事例がある※15。任意的訴訟担当では、法廷地手続法に拠るとしたうえで、当事者間における授権行為の有効性を準拠実質法に照らして判断したと解し得る裁判例が存在する※16

(4)本件の検討 まず、原審判決は、訴訟担当権限の有無を準拠法により判断するために契約準拠法を決定する前段階で、フランス民法1873条の2および同条の4を参照している。この判断は、性質決定に当たり特定の実質法に拘束されないとする抵触法の原則を逸脱した。また、この処理に基づき原告X1の当事者適格を法定訴訟担当と判断したことは疑問である。

   本判決は、準拠法の選択という処理を行った。「当事者適格の有無は、訴訟手続において、誰に当事者としての訴訟追行権限を認め、法的紛争の解決を有効かつ適切に行わせるのが相当かという視点から判断されるべき事項であるから、手続法上の問題として、法廷地における訴訟法、すなわち、我が国の民訴法を準拠法とすべきである」としたのである。当事者適格の有無の問題を「手続は法廷地法による」との原則に従い、当事者適格の有無を「手続」と法性決定した結果、我が国の民訴法を準拠法とした。しかし、本訴における原告X1の訴訟担当権限は、「被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合」に当たるから、本訴における当事者適格は、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法、すなわちフランス民法の定めにより判断されることになる。しかし、本件のように、訴訟担当者の訴訟追行権限が一定の実体法上の法律関係の存在を前提にしている場合には、当該法律関係の準拠実体法を参照することが求められるとした。これが法廷地法説に立脚する処理方法である。

   そして、本判決は、「これを、法の適用に関する通則法(以下『通則法』という。)の規定に即して検討すると、不分割共同財産制度がそもそも当事者間の合意を基礎とする制度である点に着目し、法律行為の成立及び効力の問題とみて、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法(通則法8条1項)たるフランス法が準拠法であると解することもできるし、また、原告X1と他の共同権利者らがいずれも親族である点に着目して、親族関係及びこれによって生ずる権利義務(通則法33条)の問題であるとみて、当事者の本国法たるフランス法が準拠法になると解することもできる。さらに、通則法には不分割共同財産制度に関する直接の定めがないから、抵触規定の欠缺とみて、条理により最密接関連地法たるフランス法になると解することも可能である。いずれにしても、本訴において、被担当者と担当者の実体的法律関係を定める準拠法がフランス法(フランス民法)となることは、疑いがない。」とする。

(5)訴訟担当権限が被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生する場合に、何故、「その判断に必要な限りにおいて準拠実質法を参照すべき」でなく、「法廷地法で必要とされる要件の判断に必要な限りで準拠法所属国の実体法も考慮すべき」でなく、訴訟担当権限の有無を、単刀直入に「準拠実質法により判断する」ことをしないのかという疑問が生ずる。

   私見によれば、本件におけるように、フランス法上の不分割共同財産の権利者間の生活上の問題を解決するための管理者の合意に基づき、または、それに代わる裁判所の命令により訴訟担当権限が認定されるときには、担当者の訴訟担当権限の有無は、準拠実質法であるフランス民法、また、準拠訴訟法であるフランス民事訴訟法も参酌して判断されるべきであろう。

1-2 外国の非訴判決の承認アプローチ

(1)本判決では、「なおがき」で、「原告X1を管理人に選任したパリ大審裁判所の本件急速審理命令については、外国裁判所の確定判決に関する効力の有無(民訴法118条)という側面も有するから、民訴法118条の各要件について検討する」とした。しかし、この外国判決の承認の手続は、この手続だけで、本件における当事者適格を簡潔・明瞭に判断することができたことを指摘し、強調しなければならない。

(2)まず、本件においてフランス国パリ大審裁判所で下された本件急速審理命令手続(refere)は、民訴法に係る分野で、フランス民事訴訟法851条により「審級裁判所裁判官が、法津により明記された場合に、申請に基づき、あらゆる緊急の措置が、状況に必要であるときには、その権限の範囲内で命令を下す」手続である※17

   本件では、いかなる理由で、この手続が利用されたかを検討するに、フランス民法1873条の1に基づき、「所有者、共有権者又は用益権者として不分割財産に対して行使する権利を有する者は、その権利の行使に関する合意を締結することができ」、また、同法1873条の2第1項に基づき、「共同不分割権利者は、その全ての者が同意する場合には、不分割にとどまる旨を合意することができる。」のである。

   しかし、本件では、共同不分割権利者の内の1名が、反対し合意することができなかった。そこで、同法1873条の5第1項の「共同不分割権利者は、それらの者又はそれらの者以外から選ぶ1人又は数人の管理者を選任することができる。管理者の指名及び解任の態様は、不分割権利者の全員一致の決定によって定めることができる。」の規定に基づき、1名の管理人の選任を求めることになった。また、同法815条の2第1項によれば、「不分割権利者は、全て、(それが緊急的な性質を有していなくても、)不分割財産の保存に必要な措置をとることができる。」※18とされるので、原告X1は、同法815条の6第1項の「大審裁判所長は、共通の利益が要求する全ての緊急の措置を命じ、又は許可することができる。」※19に基づき、急速審理手続を申請したのである。

   無論、この申請がなされるならば、大審裁判所の裁判官は、フランス民事訴訟法851条に基づき、あらゆる緊急の措置が、状況に必要であるときには、その権限の範囲内で急速審理命令を下す、という次第であり、本件では、その命令により、原告X1がフランス民法上の不分割財産であるピカソの著作権につき管理者に指名された。そこで、原告X1は、同法1873条の6第1項に基づき、民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する管理者となった。そして、管理者は、訴訟手続の最初の行為において、単純な表示として、全ての不分割権利者の氏名を表示する義務を負う者となったのである。

(3)X1が原告として、我が国で提起した渉外訴訟事件について、原告X1の当事者適格の有無については、既に本稿1-1で言及したように、準拠法アプローチを採用し、ある特定の権利又は法律関係について、原告又は被告として訴訟を追行し、本案判決を求めることができる訴訟上の資格の有無を検討することも理由がある。この準拠法アプローチよりも論理的にも平明で、疑問の余地を生ぜしめないアプローチが存在する。これが、外国判決の承認アプローチである。

(4)まず、この承認アプローチの出発点として、原告X1を管理人に選任したパリ大審裁判所の本件急速審理命令が、外国裁判所の確定判決としての効力を有するとして外国判決が承認されうるかが問題となるが、本判決は、本件急速審理命令が権利不分割合意の対象である不分割財産の管理人を暫定的に定めるものであって、争訟性のある事件に関する判決には該当しないとするので、この点を検討する必要がある。要は、承認国である我が国の国際民事訴訟法において、承認対象とされる外国判決が訴訟判決であるか、それとも非訟判決であるかの法性決定の問題である。

   我が国の国際民事訴訟法においてのみならず、民事訴訟法においても、どのような基準で訴訟事件と非訟事件に区別するかについては、厳格な基準は設定されていない。民事訴訟法では、争訟性、裁量性並びに審理の方式をその基準として一応の分別をしている流動的な状態にある※20。他方、国際民事訴訟法の分野では、非訟事件判決については,その考慮の対象をそれに属する判決全体というよりも外国離婚判決の承認を中心に実務も学説※21も議論を進めてきた。しかし、離婚判決のみならず多岐に及ぶ外国身分関係判決により外国非訟判決の範囲と種類が広がりを見せてきたということができる。

   そこで、パリ大審裁判所で下された本件急速審理命令事件の内容を検討するに、ピカソの相続人には、X4の死亡により、5人の相続人X1、X2、X3、X5、X6がいるところ、同人らは、フランス民法1873条の1以下に規定する不分割財産にとどめる合意をしたが、同法1873条の5第1項に規定される共同不分割権利者の定める管理者の指名にかかる合意に至らなかった。そこで本件急速審理命令に基づき原告X1が管理者に選任されたのである。同法1873条の6では、明文で、管理者に、民事生活上の行為について裁判上当事者として、その権限の範囲で不分割権利者を代表するとされており、原告X1が本件の訴訟追行権限を有することに疑問の余地はない。問題は、訴訟追行権限を付与された管理者の法的根拠の性質である、フランス民法1873条の1に基づく共同不分割権利者の合意に代替するものであるか、それとも、同法1873条の6、また、フランス民事訴訟法851条に基づき、いわば裁判上の選定当事者の権限を付与されたものであるかである。前者であれば、任意的訴訟担当として、後者であれば、選定当事者と定めた外国非訟判決であると位置づけることができるのである。

(5)本件急速審理命令が外国の非訟判決に該当することから、その承認の要件が問題となる。外国離婚判決が承認の主要な対象であった時代には、伝統的学説は国際私法的アプローチを採用した。その結果、外国非訟判決については、判決国が国際裁判管轄を有することのほかに、我が国の国際私法の定める準拠実体法と不可分とされた※22。しかし、その後、この問題については、国際民事訴訟法的アプローチも加えて、承認要件理論が構築されてきた。そして、(ⅰ)民訴法118条全面適用説、(ⅱ)民訴法118条4号を除く、類推・準用説、(ⅲ)民訴法118条4号を除く要件と準拠法要件説、(ⅳ)準拠法要件と国際裁判管轄要件説などの学説が展開された※23。しかし、その後、離婚の準拠法を要件とする学説は、既に消長した。現在では、外国非訟判決の承認要件として、全面適用説※24と民訴法118条準用説がある。

(6)民訴法118準用説は、1号と3号を承認要件とした※25。本件は、この考え方を採用し、本件急速審理命令が権利不分割合意の対象である不分割財産の管理人を暫定的に定めるものであって、争訟性のある事件に関する判決には該当しないから、被告に対する送達(2号)及び相互保証(4号)の要件は求められないとした。そこで、承認要件としての間接管轄について言及する。間接管轄の判断基準について、伝統的支配的な学説と裁判例は、母法国ドイツ法から導入した「鏡像理論」に基づき、直接管轄(審理管轄)と間接管轄(承認管轄)を同一視した。しかし、私は、「フランス法にみる国際間接管轄権-シミッチ判決による自立・独自の規則の確立を中心として」を上梓した※26。その後、東京地裁平成6年1月31日判決※27について、判例批評を書き、間接管轄の直接管轄からの独立した判断の必要性を説いた※28。そして、最高裁平成10年4月28日判決※29は、「当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべき」とした。抽象的な表現であるとはいえ、間接管轄の独自性を認めたと解することができるであろう※30

   民訴法118条3号(公序)要件は、外国判決の承認・執行を拒否することにより自国の法秩序を維持・確保するための最後の安全弁であり続けるであろうことは疑問の余地がない。しかし、危惧することもある。公序違反を判断するために、判決主文にとどまらず、理由中の判断や審理において提出された証拠資料なども審査の対象とされているのである。それがいわゆる実質的再審査主義の禁止に触れるのではないかとの懸念である。私見によれば、公序違反性を審査するために理由中の判断などを審査の対象とすることにより、判決国における事実認定や法の解釈適用を判断し直し、我が国の公序違反を理由として、権利義務関係を改変することこそ、実質審査主義の禁止に触れるのではないかと思料する※31

(7)以上のことから、本判決がパリ大審裁判所の急速審理手続に基づき命令を下され、この命令は承認国である我が国の非訟判決の承認要件を充足しているので、我が国で自動的に承認されうる。したがって、本判決の腐心にもかかわらず、原告X1の我が国における当事者適格の有無については、外国の非訟判決の承認アプローチにより、簡易に、原告X1の当事者適格を肯定することができると解する。

2 著作権移転の有無(争点2)

(1)準拠法について

   本事案では、原告協会が被告に対して、著作権侵害に基づく損害賠償請求を行う前提として、原告協会は、フランスの法人であるところ、原告協会に本訴で問題となる会員作品の著作権を移転した会員が種々の国の人間からなるので、会員から原告協会に著作権の移転が適法になされているかが問題となる。本判決は、原審判決同様に、著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、移転の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきであるとした。

   まず、著作権の移転の原因である債権行為に適用されるべき準拠法については、通則法7条により、第一次的には当事者の選択に従ってその準拠法が定められるべきである。そして、フランス法人である原告協会と会員(大部分がフランス人)との間の著作権移転に関する契約については、フランス法を選択する意思であったと解される。また、会員の中に、原告協会との契約において、フランス法を選択する明確な意思がなかった場合には、通則法8条により、最密接関連地法を適用することになるが、フランスの「1985年7月3日付きフランス共和国著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」に基づいて設立されたフランス法人との契約であり、原告協会がフランス及び外国における著作権管理を行っていることからすると、最密接関連地もまたフランス法が適用法になるとした。

   本判決は、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等が、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、通則法13条がその趣旨に基づくものであるとし、著作権が、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当であるとした。

   著作権の移転の原因関係である譲渡契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定し、フランス法を準拠法とした本判決の判断は、至当である。

(2)著作権の譲渡を債権行為と物権類似の支配関係の変動に区分して各々別個に準拠法を指定するとする本判決の立場は、従前の裁判例 ※32において繰り返し確認されてきたものである。これを学説に見るに、譲渡当事者間に限り両者を区分せず一括して債権行為の準拠法に拠らしめる見解もある※33が、裁判実務を支持する見解が支配的である※34

   次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について具体的に如何なるものかが問題になる。本判決は、「著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。」と述べて、前掲した裁判例の多くと同様、目的物所在地法原則を採る通則法13条(法例10条)の趣旨に根拠を求め、保護国法を準拠法とする旨の結論を導いてきた。学説でも裁判実務と同様の考え方が支配的である※35。しかし、学説においては、保護国法※36によるとの結論は同一であるが、その根拠を属地主義に求める学説※37と、ベルヌ条約5条2項3文「保護が要求される同盟国の法令による」を抵触規則と位置付け、これに基づき保護国法に拠らしめる見解「保護国法説」※38がある。

(3)いずれの学説によろうとも、保護国法である我が国の法が、著作権の物権類似の支配関係の変動については、準拠法となるので、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下では、原告協会と会員との間の著作権移転に関する契約が締結されたことにより、著作権は会員から原告協会に移転することになる。本判決の結論的判断は妥当である。

(4)「apport」の解釈について

  本判決は、原告協会と会員との著作権移転に関する契約である、原告協会の一般規約14条が、「作品は、その著作者、その作品の権利承継者、相続人、受遺者又は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって、当協会の管理著作物として承認される。当協会への加入により、この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他の全ての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸権利は当協会に『apport』する。」と規定するところの「apport」について解釈した。

   その結果、本件における「apport」については、団体への出資という形態をとっており、対外的には団体へ財産が移転するが、団体と加入者の間では内部的に条件や留保が付されている前提の文言として使用されていると解するのが相当である、とした。

   確かに、フランス民法1843条の2の定める「出資」と原告協会の一般規約14条で用いられる「apport」が同義であるかは、判然としない。私見によれば、協会定款2条は、「この定款により入会が許可された全ての者は、作家の作品に関する財産権の全部又は一部の保持者である。彼らは、その入会の事実によって、全ての国において、及び協会の存続期間中、第6条及び48条の規定の条件下で、下記の権利を協会に『apport』する。」とあり、「これらの全ての権利『apport』は、協会の資本金を構成するものではない」と明記されている。したがって、「apport」の文言は、本判決の理解したように「譲渡」と理解することができると思料する。

(5)フランス破毀院判決について

  被告は、フランス破毀院第1民事部2013年5月 16日を引用して、美術家が集中管理団体に対する出資(apport)によって原告協会に加盟し著作権の管理を委託したとしても、その死後において、原告協会は、当然に死亡した著作権者の相続財産となった損害賠償請求権を行使できるものではない旨主張したとされる。
乙40、368の書証を見ることができないので、[Cass.civ.,1er ch., 16 mai 2013]で検索したが、見聞することができなかった。しかし、Arret n° 547 du 29 mai 2013 (12-16.583)-Cour de Cassation-Premiere chambre civile- ECLI:FR:CCASS:2013:C100547 には、Societe de perception et de distribution des droits des artistes-interpretes de la musique et de la danse(Spedidam) c. Institut national de l’audiovisuel (INA)に関する出訴権に係る判例※39が存在した。

(6)個別の会員の入会について

   本判決は、「原告代表者の宣誓供述書や法務責任者のCUの『取扱作家権利帰属証明書』は、裏付けを伴うものとして、一定の信用性があるものと認められる。そして、これらの書証によれば、原告協会が著作権の侵害を主張する会員について、適正に入会手続が行われたと認めることができる」と判示した。

3 著作権侵害の準拠法、複製権侵害の態様と損害額(争点3)
3-1 著作権侵害の準拠法

(1)まず、原審判決は、著作権に基づく不法行為の準拠法を考慮することなく、被告の複製の態様が複製権侵害の程度、損害額の算定に結びつくとして、著作権法114条3項の損害額を算定するについて、SPDAの使用料規定に基づくのが相当であるとした。

(2)これに対して、本判決は、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であるから、不法行為の成否について準拠法が問題となるとし、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、通則法17条により準拠法が定められるところ、「加害行為の結果が発生した地」は我が国であるから、我が国の法令(民法、著作権法)が適用されるというべきである(通則法施行(平成19年1月1日)前は法例11条1項により「其原因タル事実ノ発生シタル地」の法が準拠法とされる)ところ、その地が我が国であるとした。

(3)著作権侵害に基づく損害賠償請求の準拠法については、特許権侵害による損害賠償に係る最高裁により法例11条でいう原因事実発生地とは、米国特許権の直接侵害行為がなされ、権利侵害の結果が生じた米国であるとの判断※40がなされ、爾来、通則法17条(法例11条1項)に基づき指定するのが裁判実務の一貫した見解である※41。学説も、同様である※42

(4)ところで、我が国通則法および法例には、著作権侵害の準拠法に関する明文の規定はない。その結果として、ベルヌ条約が準拠法を決定する抵触規定を含むのであれば、たとえ国内法に直接の規定がなくとも、その限りで同条約により準拠法が決定されるものと解されるところ、ベルヌ条約※43が抵触規定を含むかどうかについては、学説において、議論がある。すなわち、同条約5条2項は、「『著作者』の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。それゆえ、その享有及び行使は、著作物の本国における保護の存在にかかわらない」とした上で、「したがって、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」と規定しているのであるが、これが準拠法決定ルールを積極的に定めたものと解すべき否かであるか。

   肯定説によると、ベルヌ条約は準拠法を決定する抵触規定を含むものとされる。そして、同条2項3文が著作者の権利の保護範囲および救済方法について、保護が要求される国の法律(保護国法)を準拠法として指定する抵触規定だと解する※44。その根拠として、法統一の実現を目的とするベルヌ条約の趣旨からすれば、加盟国の実質法を統一できなかった範囲については、準拠法決定ルールを定めることによって法秩序の調和と安定を図ろうとしたと解するのが妥当だといった点が指摘されている。肯定説にしたがうと、同条約にいう「救済の方法」に何が含まれるかが問題となる。特に損害賠償請求がこれに当たるかどうかは議論のあり得るところである。もし損害賠償請求は同規定における「救済の方法」に当たらないと考えるならば、通則法17条により「加害行為の結果が発生した地」の法律または法例11条1項により「原因タル事実ノ発生シタル地」の法律が準拠法となる※45

   否定説によると、ベルヌ条約は準拠法を直接に決定する抵触規定を含まないものとされる※46。この説によれば、同条約5条2項3文は、同項1文・2文を確認するために定められた外人法の規定に過ぎないとか、法廷地国際私法によることを定めたものに過ぎないと解されることになる。その根拠として、同項3文における「したがって」(Par suite)という文言や同条項の改正経緯などが指摘されている。したがって、否定説にしたがうと、著作権侵害の準拠法は、もっぱら我が国の通則法または法例もしくは条理によって決定されることになる。

(5)裁判例 従来の裁判例は基本的に肯定説をとっており、著作権侵害を理由とする差止請求については、著作権を保全するための救済方法と性質決定し、ベルヌ条約5条2項にいう「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」に当たるとして、同項に基づいて保護国法を準拠法としている※47

(6)私見 ベルヌ条約加盟国間では、各国の著作権について実質法の統一が実現できない範囲において、国際私法規則を統一し、ひいては、判決の国際的調和を達成することを目的とするベルヌ条約の趣旨からすれば、著作権につき5条2項で準拠法決定ルールを明文で定めることによって、保護国法主義を採用し、法秩序の調和と安定を図ろうとしたと解する肯定説が妥当ではなかろうか。

3-2 複製権侵害の態様と損害額

(1)被告の複製権侵害の態様 本判決は、(ⅰ)「著作権者が、著作権行使について受け取るべき使用料を算定にするに当たっては、著作権の利用状況、すなわち、利用の形態が複製であるか、複製した美術作品の大きさや色はどのようなものかによって、適正対価を決するのが、一般的な手法と解されるところ、本件において、前記不法行為発生時に通常の使用料の算定に用いられていたのはSPDAの使用料規程であり、同規程は合理的なものと認められるから、これを損害額算定の基準とするのが相当である。」、(ⅱ)色 「SPDAが平成15年1月6日に作成した使用料規程では、使用態様が白黒かカラーかによって使用料が区別されているから、損害金算定の前提となる複製の色についても、白黒かカラーかによって区別すべきと解される。単色であってもカラーで再製されている写真は、『カラー』と認定する」、(ⅲ)サイズ 原審判決と同様に、「著作物自体のサイズではなく、写真の余白部分や撮影された背景、額縁を含めた写真のサイズとして判断するのが相当で」ある。と判示する。(ⅳ)会員作品について(略)は詳細に検討できなかったので、私見を留保するが、(ⅰ)(ⅲ)は、当を得た判断であると思料する。

(2)損害額 又、本判決は、原審判決と同様、「本件で問題とすべきは、・・・著作権侵害に係る使用料相当の損害賠償の額であるところ、原告協会とSPDAの内部関係における著作権の管理手数料の支払や原告協会の利益は、原告協会の収支全体から支払われるべき性質のものであることに照らすと、被告が支払うべき使用料相当の損害金として、上記管理手数料等を減額すべき合理的な理由はない。」は、妥当である。

4 利用許諾の有無(争点4)

(1)原審判決は、被告が、AB作品の著作権管理を行うギャルリーためながから許諾を受け、AB作品を本件カタログに複製していた旨主張したことに対して、原告協会は、平成21年12月まで、AB作品の著作権管理を行っていたこと、ギャルリーためながは、平成22年1月、ABから我が国における著作権管理の委託を受けたこと、被告は、ギャルリーためながに対し、本件カタログに係るAB作品の利用について許諾を求めたことはなく、ギャルリーためながは、被告に対し、本件カタログに係るAB作品の利用を許諾したことがない、と認定した。

   本判決の利用許諾に係る認定も原審と同様である。

(2)物理的には誰もが同時にどこでも自由になすことができる著作物の利用行為に対して、著作権という禁止権が設けられたために、著作権者以外の者が著作物を利用しようとする場合には、著作権者から禁止権を行使しないという許諾(利用許諾、ライセンス)を得ておく必要が生じることになった。そして、この利用許諾は、要式行為ではないから、その意思表示は文書による場合はもちろん、口頭によるものでも足りる。事情によっては黙示のものでも足りるとされている※48

(3)しかし、当事者間で明示的な利用許諾が行われていない場合については、幾つかの裁判例が存在する。契約当時の当事者の内心の意思に拘わらず、契約目的に従って合理的に契約を解釈する必要があるとはいえ、利用許諾の認定は、極めて微妙である※49

5 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)

(1)原審は、「『小冊子』は『観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする』ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは、『小冊子』に当たらないと解するのが相当である。」、「本件カタログは、本件オークションや下見会の参加にかかわらず、被告の会員に配布されるものであるから、著作権法47条にいう『小冊子』には当たるとは認められない。」とした。

(2)本判決も、原審判旨とほとんど同旨であり、本件カタログの主たる目的が、本件オークションにおける売買の対象作品を特定するとともに、作家名やロット番号以外からは直ちに認識できない作品の真贋、内容を通知し、配布を受けた者の入札への参加意思や入札額の決定に役立つようにする点にあり、観覧者のための著作物の解説又は紹介を主たる目的とするものでもないことが明らかであるとの理由で、著作権法47条にいう「小冊子」には当たるとは認められないとした。妥当な判断である。

(3)過去の裁判例を参照するに、著作権法47条に規定する「小冊子」は、観覧者のために美術の著作物又は写真の著作物の解説又は紹介を目的とする小冊子とは、観覧者のために展示された著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小型のカタログ、目録又は図録等を意味するものであり、解説または紹介を目的とするものである以上、内容において著作物の解説が主体になっているか、又は、著作物に関する資料的要素が相当にあることを必要とするものと解している※50

6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)

(1)本判決は、原審の判断を踏襲し、「本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が、本件オークションにおける売買という目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。」と判示したが、妥当である。

(2)適法引用を巡る、旧法下におけるリーディングケースは、最高裁昭和55年3月28日[パロディ=モンタージュ事件]判決※51である。適用引用の要件は、「主従関係」と「明瞭区別性」の2要件である※52。しかし、新法32条1項の文言に回帰し、新たな引用要件を基準とした飯村敏明裁判長による東京地裁平成13年6月13日「絶対音感事件」判決※53を嚆矢として、引用要件の新たな展開が始まる※54

   この事件では、書籍の翻訳台本の一部が掲載されたことが問題となった事例であるが、判決では、「①本件書籍の目的、主題、構成、性質、②引用複製された原告翻訳部分の内容、性質、位置づけ、③利用の態様、原告翻訳部分の本件書籍に占める分量等を総合的に考慮」して、「公正な慣行に合致」し、「引用の目的上正当な範囲内で行われたものである」かどうかが基準とされたのである。

   そして、その後の適法引用にかかる裁判例※55と学説を散見すると、最高裁の定立した2要件を墨守する学説※56、この2要件に新たな要件を付加する学説※57も存在するが、主たる学説の潮流は、著作権法32条の文言に従い、「公平な慣行」と「正当な範囲内」を主要な柱として、著作物の性質・利用態様・利用目的・利用分量等の諸要素を総合的に勘案して引用に当たるか否かを判断する立場※58であると思料される。デジタル複製技術が飛躍的に進歩し、大衆がこれを随時にかつ容易に共有できるようになった現在において、絵画の適法引用について「鑑賞性」の不存在を求めることが不適当であるとの指摘もある※59。このように、著作物の複製が紙媒体と電子媒体が共存し、電子媒体の高度化により、色の精度が増大し、サイズも自由自在となり、公衆送信が可能となった現状において、総合的に勘案すべき著作物の性質・利用態様・利用目的・利用分量等の諸要素も時々刻々急減に変化しており、「公平な慣行」と「正当な範囲内」の要件を巡る判断も流動化することも思案されるところである。

7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)

(1)著作権法は、平成21年法律第53号により改正され、47条の2が新設されたが、原審判決は、著作権法47条の2は、一定の措置を講じることを条件に、複製権公衆送信権を制限するものであるから、そのような措置が講じられなければ、複製権公衆送信権の侵害であることに変わりはないし、同規定が遡及されるものでもないため、権利濫用であるとはいい難いとして、被告の主張を退けた。

(2)本判決も、原審の判断を支持し、著作権法47条の2の規定が遡及適用されるものでもないとし、また、著作権法47条の2の新設により、同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償請求等の権利行使をすることや、同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使をすることが、権利濫用であるとはいい難いし、その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められないとした。妥当な判断である。

(3)裁判所の妥当な判断にもかかわらず、著作権法47条の2の新設により、元来著作権による保護が限られているとされる美術の著作者の、権利の更なる制限に繋がるおそれがあり、著作者が被る不利益を追及権によって補完する方法を提起する意見も存在する※60。この追及権は、著作者が原作品そのものを譲渡することによって対価を得るという美術の著作物に特有の事情から導入の必要性が叫ばれているものである。著作者と著作物の利用の権利の調和を図るためにも、EU指令なども参酌しながら、著作権法の目的である「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与すること」を希求すべきであろう※61

8 不当利得返還請求について

(1)本判決の判旨の最後では、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求の選択的併合が論ぜられ、不法行為に基づく損害賠償が認められなかった部分について、不当利得返還請求の可否が問われた。

(2)本件では、不当利得の成立及び効力は、通則法14条により、「原因となる事実が発生した地の法による」として、また、同法15条は、同法14条の規定にかかわらず、より密接な関係地がある場合には、当該地の法を準拠法とすることを認めているが、本件ではそのような例外が適当といえるような事情は認められないので、不当利得の準拠法は、我が国の法令である民法704条である。

   また、既に記載したように(争点3)、著作権侵害に基づく損害賠償の準拠法は、裁判実務の一貫した見解によれば、通則法17条に基づくことになり、我が国の法である民法709条以下となる。

   したがって、本件では、不当利得と不法行為のいずれについても、我が国の民法の規定が適用されるので二つの請求権の競合が生じたとしても一貫した解決が可能である。この判旨は当を得ていると思料する。

(3)しかし、不当利得と不法行為の二つの法律関係の準拠法が異なる国の法となることもありえよう。当事者による準拠法の変更がありえないとしても(通則法16条、21条)、明らかにより密接な関係がある場合の例外の判断が異なることもありうるからである(通則法15条、20条)。本件とは異なり、二つの法律関係について準拠法が異なるので、原告敗訴の本案判決をするためには、裁判所は、全ての準拠法について判断をすることが求められることとなる。また、原告勝訴の場合でも、異なる準拠法に基づく二国の実質法の規定の適用結果をどのように調整するかの問題が生ずることとなろう。

第5 終わりに

 私は、法科大学院の設置に伴い、文部科学省から助成を受けた知的財産権の教材の作成プロジェクトで「国際紛争」Groupの責任者となり、2006年10月28日に、その教材を完成させた。その内容は、No.1 EUの組織と知的財産権法、No.2 EUにおける知的財産権に関する紛争処理制度、No.3 並行輸入とEU商標権(シルエット事件、フレッドペリー事件)、No.4 職務発明、著作者人格権、先願主義、No.5 USA知的財訴訟と連邦巡回裁判所、No.6 知的財産に関する国際的枠組み、No.7 国際知財紛争(準拠法)、No.8 国際知財紛争(国際裁判管轄権)、No.9 国際知財紛争の解決手段(国際商事仲裁と調停、ADR)、No.10 中華人民共和国の知的財産権と紛争処理機関と手続、である。

 この知財権をめぐる国際紛争のプロジェクトに携わる契機となったのが、本稿でも取り上げたサルバドール・ダリ(Salvador Dali)の著作物をめぐる著作権侵害差止等請求事件である。藤田嗣治絵画複製無断掲載差止等請求事件に次いで、高名な芸術家の著作物をめぐる渉外事件が相次いで発生したことから、教材作成のために、条約法、諸外国法、EU法などの法と紛争解決制度を鳥瞰し、検討・紹介する必要が生じた。そして、その一貫として、運にも恵まれて、ダリの生活した別荘のある地※62、カダケス(Cadaques)とフィゲーラス(Figueres)のダリ財団(Fundacio Gala-Salvador Dali)※63やダリ劇場美術館※64、そして、アリカンテ(Alicante)の欧州共同体商標意匠庁(OHIM)(現在、欧州連合知的財産庁(EUIPO)※65)を訪問した。そして、ダリがよく通っていたホテル・デュラン(Duran)に宿泊し、1階のレストランなどに所狭しと陳列してあるダリの作品や関係する品々をワインと共に堪能した。そして、今、国立美術館で9月14日から、ダリ展が開催されている※66

 本稿で取り上げたパブロ・ピカソ(Pablo Ruiz Piasso)については、彼の長い名前について一言するにとどめる。落語で神田の杉太郎が登場する「寿限無」という長名の噺があるが、ピカソもそれに負けない。諸説があるようだが、講談社の『ピカソ全集』によると、「Pablo Diego Jose Francisco de Paula Juan Nepomuceno Maria de los Remedios Crispiano de la Santisima Trinidad」とされる。79字の名前の長さに負けず、長命92歳で多作家であった事は、周知のとおりである。

 最後に、Figueresから到着したCadaquesの穏やかな海を見て頂く事にする。ダリは、ジャン・モネ(Jean Monnet)※67に負けず劣らずにジャポニスムに傾注したことがあったのかなと述懐する。

CADAQUES

(掲載日 2016年9月29日)

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