判例コラム
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第22号 インターネット上の名誉・信用毀損に関して国際裁判管轄原因(不法行為地)が日本にあると認めた上で「特別の事情」(民事訴訟法3条の9)により訴えを却下した事例 

~東京地判平成25・10・21※1

文献番号 2014WLJCC004
同志社大学
教授 高杉 直

1.はじめに

平成23年改正民訴法によって国際裁判管轄規定が整備されるまで、我が国には国際裁判管轄に関する明文規定は存在しないと一般に解されていた。そのため、裁判例は、条理に従って判断を行うとし、[1]民訴法の規定する国内管轄の裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、日本の国際裁判管轄が肯定されるが、[2]日本で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する「特段の事情」があると認められる場合には、日本の国際裁判管轄を否定すべきであるとの法理を確立していた(最判平成9・11・11民集51巻10号4055頁※2)。
平成23年改正民訴法は、基本的には従来の判例法理に従って財産関係事件の国際裁判管轄規定(民訴法3条の2から3条の12)を新設したものであり、不法行為事件については加害行為地と結果発生地の双方を管轄原因とした(民訴法3条の3第8号)。また、詳細かつ精緻な国際裁判管轄原因を定めることで、「特段の事情」による例外的規律が不要となるとの考え方もあったが、最終的には、具体的妥当性を確保するための例外条項が必要と考えられ、(従来の「特段の事情」に相当する)「特別の事情」の規定(民訴法3条の9)が置かれた。
本件では、これら2つの規定(不法行為に関する3条の3第8号と「特別の事情」に関する3条の9)の解釈・適用が問題となった(このほか、併合管轄や専属管轄合意なども問題となっているが割愛する)。

2.事実の概要

X1社は、遊戯機の開発・製造・販売等を主業務とする日本法人である。X2社は、有価証券投資等を主業務とする日本法人であり、X1社の発行済株式を約5千5百万株保有している。日本に住所を有するX3は、X1社の取締役会長であり、X2社の完全親会社であるA社(香港法人)の持分全てを親族と共に保有している。Y1社は、リゾートカジノの運営を主業務とする米国ネバダ州ラスベガス市に本店を有する法人である。ネバダ州在住のY2はY1社の取締役会会長兼最高経営責任者、ネバダ州在住のY3はY1社のジェネラル・カウンセル、米国またはマカオに居住するY4~Y13はY1社の取締役(被告取締役ら)である。
X1社の完全子会社であるB社(ネバダ州法人)は、Y1社の発行済株式の19.66%を保有していた。ネバダ州には、犯罪その他の好ましくない事柄に関与する危険性のある個人や団体をゲーミング事業から排除するための法令が存在し、ゲーミング免許取得者は、関係者が不適格との認定がされると、規制機関から免許が剥奪されることもある。そこで、ゲーミング免許取得者であるY1社は、基本定款において、取締役会がその裁量に基づいて不適格と判断した株主の株式償還に関する規定を定めている。
平成23年、Y2、Y3及びY7は、Y1社のコンプライアンス委員会をして法律事務所を雇わせ、X3及びその関係者の違法行為の調査をさせた(本件調査依頼行為)。平成24年、法律事務所報告書に基づいて、被告取締役らは、B社、X1社及びX3を定款にいう「不適格」に当たると認定し、また、B社が保有するY1社の株式を、10年満期の約20億米ドルの約束手形と引き換えに強制償還することを、X3を除く取締役の全員一致で決定した(本件取締役会決議)。その後、Y1社は、法律事務所報告書が、X3及びその関係者が自らの利益を図るために、多数回にわたって米国海外腐敗行為防止法に明白に違反する活動等に従事してきたことを立証したことと、本件取締役決議の内容とを英語で記載したプレスリリースを、そのホームページ上に掲載した。
本件プレスリリース公表後、X1社の株価は約400円下落し、時価総額は約300億円低下した。この株価下落によって、X2社には約200億円余りの損失が生じた。
Xらは、Yらの行為(本件調査依頼行為、本件取締役会決議、本件プレスリリースの掲載)によって、X3及びX3が取締役会長を務めるX1社の名誉・信用を毀損し、その結果、X1社の株価が下落したため、X1社の株式を保有していたX2社に損害が発生したとして、Yらに対し、損害の賠償を求めて本件訴えを提起した。
Yらは、本件訴えについては、我が国の裁判所の国際裁判管轄に属さないと主張して、その却下を求めた。

3.判旨

訴え却下。

(1)不法行為地に基づく国際裁判管轄の有無

(1-1)「民訴法3条の3第8号にいう『不法行為があった地が日本国内にあるとき』とは、加害行為地が日本国内である場合だけではなく、加害行為による直接の結果が発生した地が日本国内である場合も含まれる」。
(1-2)「本件プレスリリースには、……X3及びその関係者が多数回にわたり米国海外腐敗行為防止法違反を繰り返したこと等が記載されており、Y1社がこれをインターネット上で公表することによって、日本国内でも閲覧可能な状態となったことに照らせば、X3及びX3が取締役会長を務めるX1社の名誉・信用毀損結果が日本国内でも直接発生したといえる。」
「Y1社は、米国の法人であるものの、[1]本件プレスリリースがインターネット上に公開される以上は、日本国内でも容易に閲覧可能な状態に置かれること、[2]X3は、日本人であり、B社の親会社であるX1社は、日本の株式会社であって、日本国内にも株主が多数いることは容易に想像され得るところであることからすれば、英語表記である点を考慮しても、なお日本国内で閲覧され、日本の投資家等にも多大な影響を及ぼすであろうことは、十分予見することが可能であったといえる。」
「他方で、X2社が被った損害は、本件プレスリリース掲載により直接発生したものではなく、X1社の株価が下落したことに伴って生じた二次的・間接的被害というべきであるから、本件プレスリリース掲載によって、直接X2社の損害という結果が日本で発生したとはいえない」。
(1-3)「本件調査依頼行為及び本件取締役会決議は、米国内で行われ、その直接の結果としての調査行為やB社が保有するY1社の株式償還についても米国内で行われている。また、……本件プレスリリースの掲載行為……は別個の行為であり、……本件調査依頼行為及び本件取締役会決議から、本件プレスリリースの掲載並びにこれによるX3及びX1社の名誉・信用毀損という結果が直接に発生したということはできない。」
(1-4)「以上によれば、Xらの主張する不法行為のうち、Y1社による本件プレスリリース掲載行為については、X1社及びX3の名誉・信用毀損結果が直接日本国内において発生しており、『不法行為があった地が日本国内にあるとき』に該当するといえるが、その余の被告による行為については、これに該当しないことになる。」

(2)特別の事情による訴え却下の可否

「本件に関しては、[1]Y1社の事業・経営に関し、日本の裁判所に訴訟が係属することは、双方当事者としても、予定も予想もしていなかったと解するのが相当であること、[2]本件訴訟に関連する証拠についても、比較的多くの書証・関連証人等が米国内に所在すると考えられ、これらを日本の裁判所において取り調べるには、多数の証拠に関して翻訳や通訳が必要となること、[3]Y1社及びその関係者にとって、日本において本件訴訟への対応をすることは、相当程度の負担となり、他方、X3及びX1社は、関連する別件米国訴訟への対応・反訴提起等の活動を行っていること等の事情があると認められ、これらの事情に照らせば、本件訴訟については、『日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情がある』というべきである。」
「なお、特別事情の有無については、民訴法3条の9の趣旨に照らして、同条記載の各要素が総合的に判断されるべきであり、安易に特別事情による却下を認めることは原告の裁判を受ける権利を実質的に奪う結果となりかねないため、厳に慎まなければならないが、他方で、原告らが主張するように、特別事情を極めて限定的な場合に限られるとの解釈をすべきものと解することはできず、前述したとおりの本件における諸事情の下では、当事者間の衡平や適正迅速な審理の実現のために、我が国における審理及び裁判をすることが相当でないと解されるところである。」
「したがって、X1社及びX3のY1社に対する訴えについては、民訴法3条の9にいう『特別の事情』があると認められるから、当該訴えを却下することが相当であると考えられる。」

4.本判決の意義・課題

本判決の意義は、[1]インターネット上の名誉・信用毀損による不法行為地の決定に関連して、(a)日本国内でも閲覧可能な状態となったことにより日本を結果発生地と認定したこと、(b)英語の記載であっても対象が日本人・日本会社等である場合には日本での閲覧・影響について予見可能であると認定したこと、[2]不法行為地としての結果発生地の解釈に関連して、直接の損害発生地に限定し、二次的損害発生地については不法行為地と認めなかったこと、[3]「特別事情」の解釈について、極めて限定的な場合に限られるとの見解を否定した上で、本件では「特別事情」があると認定したこと、にあると思われる。
特に[3]に関して、本判決と同様に、管轄原因が日本にあると認められるにもかかわらず特別事情があるとして訴えを却下した裁判例として、東京地判平成25・2・22(2013WLJPCA02226001※3)がある(中国に所在するマンションの1室について共有物分割を求めた事案)。同判決は、「特別事情」の考慮要素について、「『事案の性質』とは、請求の内容等の紛争に関する客観的な事情を、『応訴による被告の負担の程度』とは、応訴により被告に生じる負担、当事者の予測可能性等の当事者に関する事情を、『証拠の所在地』とは、物的証拠の所在地や証拠調べの便宜等を含むものと解される」と判示し、「事案の性質」として準拠法や判決の執行可能性などを論じた。同判決とは異なり、本判決では、原告らの当事者の予測可能性を「事案の性質」で取り上げたり、日本の管轄が否定される場合の原告の不利益を独立の項目として論じたりしている。本判決が示すように、「特別事情」を極めて限定的な場合に限るものではないと解するのであれば、今後、法的安定性・確実性を確保するためにも、特別事情の判断基準・判断枠組みの明確化・精緻化が要請されよう。

(掲載日 2014年3月3日)

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